これぞ「大阪の情」やわ!元禄時代から続く人形浄瑠璃文楽に浸る
文楽は民間に支えられてきた
上方の落語には、旦那が下手な義太夫節を語り、家のものを困らせる『寝床』や、義太夫節の話を実際の出来事と勘違いして騒動を起こす『胴乱(どうらん)の幸助』など、義太夫節に関する噺(はなし)が多くある。明治~大正期の大阪は義太夫節が大流行りで、街中には義太夫節の稽古場が数多くあったという。 国立文楽劇場設立に当たっても、民間の力が後押しした。清元や文楽など日本の伝統芸能に造詣が深かった近畿日本鉄道社長(当時)の佐伯勇(さえき・いさむ)氏は、文楽協会の設立に尽力、協会の理事長も務めた。佐伯氏は、文楽を何とか後世に伝えたいと思い、大阪に国立劇場を造るよう、三木武夫首相(当時)に直訴したという。
12年前の「橋下ショック」
今から12年前の2012(平成24)年、文楽業界に激震が走った。 大阪市の外郭団体であった文楽協会は当時、運営費を市からの補助金で補っていた。しかし、大阪市の橋下徹市長(当時)が、「文楽は儲からない」「経営努力をしていない」などと批判、文楽協会への補助金を全額カットした。 「それを受けて、多くの方が『文楽を守ろう!』という声を上げてくださいました。それまでは満席になることはあまりなかったのですが、お客様が連日劇場にお越しくださり、観客動員数が過去最高を記録。この話題により、多くの方に応援していただきました。大阪をはじめ関西の人々の魂の中に、脈々と文楽が息づいていることを感じましたね」(中島氏) 現在は大阪商工会議所を中心とする関西企業の寄付等で、文楽協会を支えている。しかし、バブル崩壊以降、いやそれ以前から、東京へ本社機能を移す在阪企業は後を絶たず、関西経済は低空飛行を続けている。関西経済の低迷は、文楽を支える基盤も揺らいでいることを意味している。
日本の固有の文化を、あまりにも知らなさすぎる
中島氏は言う。 「文楽は大阪という街が育んだ伝統芸能です。だからこそ貴重で、守らなければいけないと思います。第二次大戦の空襲で、京都・奈良は空襲に遭わなかった。それは、世界に京都・奈良の文化が知られていてリスペクトされていたからです。文化にはそれほどの力がある。大阪が持つ固有の文化を大切にしていくことは重要だと思います」 前述のように、日本芸術文化振興会では毎年6月、国立文楽劇場で、文楽鑑賞教室を開催する。他にも、大阪市内の幼稚園児や小学生、関西圏の中学生・高校生らに観てもらう機会を提供している。 私が学生だった時も、学校から文楽を観に行ったような記憶がある。確かに一度でもよいが、できれば二度、三度と観たほうが絶対いい。それが大阪市民・府民ならなおさらだが、そもそも私達は、日本の伝統文化、中でも邦楽に触れる機会がなさすぎる。 国の音楽教育では、カスタネットやリコーダーなど洋楽器は教えているが、三味線や琴などの邦楽器や、日本の伝統歌唱である義太夫や清元、常磐津などは教えていない。 洋楽には洋楽のよさがあるように、邦楽には邦楽のよさがある。日本固有の音楽、邦楽に親しむ機会がもう少しあってもいいのでは? また、募集している文楽技芸員の研修生も2023(令和5)年はなり手がおらず、募集期間を延長する異例の事態となった。現在、国立文楽劇場に出演している文楽の技芸員は計83人(大夫21人、三味線22人、人形40人)。 伝統芸能をこれだけの人数で支え、伝えていくのはあまりにも心許ない。