検察のエースが部下の女性に…「泊っていけ」と言われた編集者が体感した性暴力の構造
駆け出し編集者が遭遇したこと
では、性暴力とは何か。それを考えるにあたり一つ重要なのは、NOを言える状況にあるか。そしてそのNOを大切にされる環境にあるか。それが大きな目安となるのではないかと考えます。 わかりやすい事例を挙げてみましょう。当時、筆者は23歳で、週刊誌の編集部に配属されて1年足らずの駆け出し編集者でした。 休暇をとる上司から、自分の代わりにジャーナリストのA氏との打ち合わせに行ってほしいと依頼を受けました。A氏は元大手メディアの記者で、当時週刊誌や新聞などにも寄稿していました。日本中が注目するニュースの寄稿もあり、是非お話をしてみたいと感じました。上司はその経験を積むためにも提案をしてくれたのだろうと思いました。 A氏の事務所は、都内のマンションの一室でした。 ダイニングテーブルで資料を広げ、企画について打ち合わせをします。滞りなく打ち合わせが終わり、ほっとしているところで「ちょっと一杯やろう」と誘っていただきました。これは仕事の話を伺ういいチャンスです。あの記事はどうやって書いたのか聞いてもいいのだろうかなどと考え、緊張と期待とが高まります。ファイルなど大量の資料があり、それを持ち歩くのは心配だなと考え、事務所に置かせていただいて後で取りに戻ることにしました。 向かったのはチェーンの居酒屋。ビールで乾杯をしたあとに「日本酒にしよう」とA氏がぬる燗を頼みました。幸い日本酒は筆者も大好きです。先方もそのようで、どんどん杯があいていき、徳利は何本にもなりました。そして互いにかなり飲んだころ、A氏は私のお猪口にお酒を注いで「もっと飲め」と口にしたあと、こう続けたのです。 「君は新人だから教えてあげるよ。いいか、女性の記者は寝てネタを取るんだ。○○新聞の××もそうやってエースになった。それくらいでないといい記者になれないんだ」
もしや、自分を性的対象として見ているのだろうか
凍り付きました。もともとお酒は弱くはない方ですが、酔いがさっと醒めていくような感じがしました。この人は、筆者に「枕営業をしてネタを取れ」と「教えて」いるのでしょうか。これが酔っ払った同期のセリフなら、ふざけんな!と怒鳴るところです。しかし相手は初対面、しかも名のあるジャーナリスト。さらに筆者は上司の代理で打ち合わせに来た身です。 筆者はようやく小さな声で「それがいい記者なら、私はいい記者にならなくていいです……」と言いました。しかし彼は「そんなんじゃだめだ」と、具体的な媒体名や記者の方々の名前を挙げました。 「もしかしたら、A氏は自分を性的対象として見ているのだろうか」という恐怖で、背中には汗をびっしょりかいていました。 それから「もう一軒行くぞ」と近くのバーに行きます。断ればいいのでしょうが、断れる空気ではなかったのです。もはや何を飲んだのかは覚えていませんが、「お前は疲れてるな」と肩をもまれて、思わず鳥肌が立ったのを強烈に覚えています。 どうにかして逃げなければならない。しかし、資料はA氏の事務所に置いたままです。行くしかない。でも絶対危ない。緊張が走ります。