DV男から逃げた19歳女性、“所持金数百円”で「生活保護」申請も…社会復帰への「一歩」を踏み出すまでに味わった「困難」とは【行政書士解説】
私たちが向かった福祉事務所は、カスミさんが1人で行って門前払いされたところではなく、賃貸契約を交わして、実際に住むことになった物件の所在地の管轄事務所です。 役所へ到着した頃はもう閉庁間際だったので、急いで受付に行き、「生活保護の申請窓口はどこですか?」と単刀直入に聞きました。案内された窓口へ行き、「行政書士です」と名刺を差し出し、「所持金も収入もなく、貴福祉事務所の管轄区域内の賃貸物件に、1人暮らしをすることになったこちらの女性の生活保護申請を本日しますので、書類をください」と伝えると、すぐに別室に案内してくれました。
わずか5日で生活保護が決定。その理由
申請時点で、カスミさんの所持金は数百円しかありませんでした。そこで、カスミさんのために調査期間中の生活費の貸し付けか、食糧支援をしてほしいと要望したのですが、役所は「行政書士さんが貸してあげて」とのこと。 こちらの福祉事務所では「どうしても生活保護調査期間中の金銭の貸し付けができず、食糧支援しかできない。しかも、今提供できるのは乾パンしかない」とのことでした。 何日も乾パンで過ごさせることは、人道面だけでなく、栄養価的にも問題があります。 しかし、私からカスミさんにお金を貸すことはできません。生活保護の原則的な扱いでは、申請をしたあとに借金した場合は「本人の収入」として扱われ、借りたお金も保護費から減額されてしまいます。「きちんと行政で最低限の救済措置を講じてください」と交渉しました。 そして、話し合いの結果、「今回は特例として、保護決定までの最低限の食費を行政書士が貸しても、それは収入とみなさず保護費から減額しない。そのような状態ができるだけ速やかに解消されるよう、役所も精一杯調査を急ぐ」ということになったのです。 生活保護の実務は決して杓子定規なものではありません。生活保護申請をする人はそれぞれ様々な事情を抱えています。したがって、個々のケースに応じ、窓口の職員の裁量でこのような柔軟な扱いを行うことも、本来は許容されているのです。 銀行口座さえ持っていなかったカスミさんの資産調査は、すぐに終わり、わずか5日で生活保護が決定しました。 なお、本件は原則的な扱いとは異なるイレギュラーな取り決めなので、カスミさんと行政書士と福祉事務所との間で書面を交わしました。
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