53歳”キングカズ”がJ最年長出場記録更新で躍動…「自分の気合いを示すことで戦う姿勢を見せたかった」
先発メンバーを見渡せば、リーグ戦で先発している選手は3人しかいない。そのうち伊野波雅彦とカルフィン・ヨン・ア・ピンのセンターバックコンビは、開幕節以来の公式戦出場だった。つまり、再開されてから先発を経験しているのは、左サイドの志知孝明だけだった。 それでも、相手に対して怯む理由にはならない。めぐってきたチャンスで結果を出し、リーグ戦で起用されている選手たちを脅かす。チーム内で生まれる競争が嫌なムードを吹き飛ばし、成長していくための源になると率先して示したかったカズは、両チームが前半に放った8本のシュートのうち、唯一枠内への一撃となった前半30分のシーン以外にもフォワードとして躍動した。 シュートを放つ直前には草野を前線に残してあえて中盤に下がり、パスを受けてから時間を作り、自らを追い抜いてペナルティーエリア内へ走り込んでいったボランチ安永玲央へスルーパスを通した。 前半アディショナルタイムにはペナルティーエリア内でパスを受け、途中出場していたDF中野伸哉が背後からかけてきたプレッシャーに耐え続けた。まもなく17歳になる、サガン鳥栖U-18所属の高校2年生は父子ほどに年が離れたレジェンド、カズとのバトルをこう振り返っている。 「自分はベンチスタートでしたけど、試合に出たときにはカズさんとマッチアップしたかった。カズさんは動き出しが本当に上手いので、すごいなと思いました」 全体としてサガンに押し込まれる展開が続いた後半18分に、カズは22歳の一美和成との交代でベンチへ下がった。しかし、カズが日々の練習を介して横浜FCへ大きな影響を与え続けていることが、後半アディショナルタイムにMF瀬沼優司が決勝弾を決めた直後に図らずも明らかになった。 途中出場した昨年8月31日のモンテディオ山形戦以来の公式戦出場を果たし、本来のフォワードではなく不慣れな右サイドで、決勝トーナメント進出に望みを繋ぐ大仕事を成し遂げた29歳は、ピッチ上で祝福を受けた後にカズが笑顔を満開にさせているベンチ前へ駆け寄っていった。 「僕自身、試合から遠ざかる時間が昨年から長かったなかで、弱音やネガティブな言葉をまったく言わない、最高のお手本がいつも身近にいました。すぐ近くで背中を見せて学ばせてくれたカズさんは『必ずチャンスが来るから、頑張ってやっていこう』と声をかけてもくれた。たまたま最後にゴールしたのは僕ですけど、励まし続けてくれた感謝の気持ちがあったのでカズさんのところへ行きました」 カズ自身も昨シーズンのJ2で3試合、下平体制になってからはJ1昇格を決めた愛媛FCとの最終節の、最後の3分間だけの出場にとどまった。それでも上手くなりたい、上手くなれるという思いを抱いて、ブラジルでプロになってから35年目のシーズンに臨んだ。その源泉をこう語ったことがある。 「毎日の生活がもうサッカーなので。若い選手と競い合うことも含めて、ピッチに立てるように毎日練習する。そこへ向かう情熱がある限り、自分のなかでは戦えると思っています」 真摯な姿勢が認められて手にした、J1の公式戦に限れば13年ぶり、実に4631日ぶりとなるプレーでストライカーとして、そして周囲を背中でけん引する大ベテランとして存在意義を証明した。再び敵地で行われる12日の北海道コンサドーレ札幌とのグループステージ最終節でもカズが期待に応えれば満を持して、リーグ戦へ臨むメンバーに割り込んでいくための挑戦状を手にするはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)