サプライヤーから不安の声…自動車不正、全国に波紋呼ぶ
受注減、人員・設備の負担増
自動車メーカーの型式指定不正でトヨタ自動車とマツダが対象車種の生産を停止したことを受け、サプライヤーへの影響が懸念されている。サプライヤーは「生産・出荷停止が長引けば影響が大きくなる」と事態の推移を注視。生産再開の時期は不透明で減産が拡大すれば地域経済への影響は避けられない。一方、不正の背景にある安全基準のあり方が問われており、実情に即した認証制度の見直しを求める声も強まっている。(特別取材班) 【一覧表】自動車サプライチェーンの詳細とメーカー別の不正行為 国土交通省は不正のあった5社に立ち入り検査を開始。現行生産車については基準適合性を確認するまで出荷停止を指示し、トヨタとマツダは対象車種の生産を停止した。 ハイレックスコーポレーションは出荷停止で当面、トヨタ向け6400万円、マツダ向け1200万円の受注減を見込む。寺浦太郎社長は「国内事業としては影響が大きい。受注が経営の安定につながることはコロナ禍で痛感した。早く安定した数量の生産を一番願いたい」と訴える。 現行生産車の出荷停止はトヨタが3車種、マツダは2車種、ヤマハ発動機は1車種。ただ現在、調査中の企業もある。軸受・機械部品などの製造・販売を手がけるダイヤメット(新潟市東区)の伊井浩社長は「現時点で発表されている車種に限定されれば自社業績への影響は軽微。ただ停止期間の延長、対象車種の範囲拡大が起こると影響は大きくなる可能性がある」と身構える。 自動車産業は裾野が広く、不正発覚は全国に波紋を呼ぶ。「自動車関連が売上高の6―7割を占めるので不安は大きい。当社が関わる製品がどのくらいあるのかを洗い出している。影響の大小は分からない」(北海道のサプライヤー)という企業は少なくない。 関東のサプライヤーは「今でも自動車生産が低迷しているが、さらに生産減少となると厳しい。いずれ生産は戻るので、人員と設備を維持しなければならない」と苦しい状況を明かす。別の関東のサプライヤーも「ビジネスへの影響はおそらくある。2024年後半から仕事が戻り、25年、26年はもっと忙しくなると言われたが、足元では全然出てこない。今回の件でさらに遅れるだろう」と推察する。九州北部で自動車製造関連装置の開発などを手がける機械メーカーの社長は「現時点でマイナスの影響はない」としつつも「今後の設備投資に影響が出てくる」と懸念する。 自動車部品メーカー向けの加工機を製造・販売するサンシン(新潟県長岡市)の細貝信和会長は「設備投資への意欲をなくす企業が出てくるのではないか。コロナ禍を過ぎてようやく需要が盛り上がりつつあった直後のことだ。今はどれだけの影響があるか読み取れない」と不安を表す。 東海地域の樹脂加工メーカーの首脳は「『不正』という言葉が独り歩きしている。サプライヤーとしては生産が止まり、影響は少なくない。検査が速やかに終わり(国交省の)判断を待ちたい」と祈る思いだ。 3日の会見でトヨタの豊田章男会長は「当局に全面的に協力し、いち早く生産を開始することに全力を尽くしたい」と述べ、マツダの毛籠勝弘社長も「今回、出荷が止まり生産も止まる。損失には誠意を持って、カバーしていく」と語った。23年に不正が発覚したダイハツ工業は、生産停止で受注が減少したサプライヤーに売り上げ補償などを支援した。今回の不正は現時点で、対象車種や生産台数は限定的だが、サプライヤーへの密な対応が求められる。