インティマシーコーディネーターの導入で何が変わるのか 俳優の「できません」は当然の権利
■男性俳優からもインティマシーコーディネーターを望む声
――インティマシーコーディネーターとして現場に入る際に、大切にしていることはどんなことですか? 浅田さん:一般的に「インティマシーコーディネーターは女優を守る」とか、そのように考えられていることが多いんです。でもそうではなくて、“いい作品にしたい”っていう気持ちがあって、その上で俳優たちを守っていくということなので、大切にしていることは、やはりそのバランスです。俳優だけを守るわけではなくて、いい作品にするために、監督のビジョンがあって、出演者がいて、そこでどうすれば一番いい作品が撮れるかっていうところのバランスをやっぱり気をつけないと、どちら側かに寄ってしまうということはできるだけ避けるようにしています。 ――これまで携わった作品では、俳優からの要望がきっかけだったケースが多いですか? 浅田さん:半分ぐらいはある気がしますね。明らかにインティマシーコーディネーターを入れてくださいとおっしゃったケースですと、去年放送されていたNHK『大奥』で、髙嶋政伸さんがとても難しい、自分の娘に性的加害をするという役を演じるにあたって、インティマシーコーディネーターを必ず入れてくださいとプロデューサーにお願いしていたというケースもありました。今まではどちらかというと、やはり女優を守るとか、そう思われているところに、男性、それも加害者役の方が発言をしてくださったのは、そういう仕事なんだっていうふうに一般の方に伝わったのではないかなと思っています。
■主演俳優の意見がむげに…浮かび上がる懸念点
映画やドラマの現場でインティマシーコーディネーターの導入が進む一方、性被害が描かれたある作品において、主演俳優がインティマシーコーディネーターの参加を望んだにもかかわらず、監督が受け入れなかったとされ、SNSなどで問題視する声があがっています。 ――インティマシーコーディネーターという職業がこのような形で注目されたことについて、浅田さんは今どう感じていらっしゃいますか? 浅田さん:インティマシーコーディネーターというものが、そのような形で話題になってしまったことがまずとても残念です。主演俳優の“インティマシーコーディネーターを入れたい”という気持ちがむげにされてしまったということが一般的に広がっていくと、“主演俳優でもだめだったんだ”と、役名のない方とか、経験が浅い方、エキストラの方が、どんどん言いづらくなってしまうのかなと思っていて、私はそこが心配でした。 インティマシーコーディネーターを入れなかったからこうなったんだみたいなことになってくると、今後“とりあえずインティマシーコーディネーター入れとこう”とかっていう考えの方が増える可能性があると思うんです。今まで仕事をしてきて、“ああ、そこまで必要とされてないな”と感じることは、やはりありました。なので、今後、“とりあえず入れる”とか、“入れなきゃいけないから入れる”っていう考えが増えてしまうと、なかなか私の(本来の)役割を果たすことが難しくなるなと思っています。