動物はなぜうんちを食べるのか、他種の糞を食べる動物もたくさん、ヒトはなぜ食べないのか
海のサプリメント
レンペル氏は、カリブ海のボネール島周辺のサンゴ礁でダイビングをしていたときに、ブラウンクロミスというスズメダイ属の魚の群れから降ってきた粒状の糞に向かってクロハギ属やブダイ科の魚が突進する様子を目にした。同様の行動は、以前にもインド太平洋のいくつかのサンゴ礁で観察されていた。 「1個の糞をめぐって2匹の魚が争っているのを見たこともあります」とレンペル氏は言う。レンペル氏らの研究によると、ブラウンクロミスの糞の約85%が魚に食べられていて、その大半をブダイ科の魚かクロハギ属が食べていたという。 クロハギ属やブダイ科の魚は、ふだんは藻類を食べているが、藻類には魚たちの生存に不可欠なカルシウム、リン、亜鉛などの微量栄養素があまり含まれていない。タンパク質の含有量も少ないが、魚たちはタンパク質を含むシアノバクテリアや藻類に付着した有機堆積物も食べている。 一方、プランクトンを食べるブラウンクロミスは、タンパク質や微量栄養素を豊富に含む糞を排泄する。 レンペル氏は、ブラウンクロミスの糞は、ほかの魚たちにとっての栄養補助食品のようなものだと説明する。「これが本当のビタミンシー(sea)です」
多様性に富む腸内細菌で健康に
オーストラリア、南オーストラリア大学の微生物生態学者であるバーバラ・ドリゴ氏は、多くの鳥にとって、食糞は有益な腸内細菌を摂取するための行動なのではないかと考えている。その理屈は、健康なドナーの便に含まれる腸内細菌を病気の患者に移植して腸内細菌叢(そう)を改善する「糞便移植治療」と似ている。 ドリゴ氏は、ある種の渡り鳥は、新しい土地に到着すると、そこにすむ鳥たちの糞を食べて、その土地の食べ物を効率よく消化するのに役立つ腸内細菌を獲得しているのではないかと推測している。 オオバンという鳥のひなはしばしば親鳥の糞を食べるが、彼らの行動もまた、その土地の食べ物を消化するのに必要な腸内細菌を摂取するためかもしれない。 また、南アフリカの研究施設で飼育されているダチョウのひなを対象とした実験では、親鳥の糞を食べさせたひなは、食べさせなかったひなに比べて腸内細菌叢が多様性に富んでいて、成熟も早かった。生後8週目の時点で、親鳥の糞を食べさせたひなは体重が約10%重く、腸の病気で死ぬ割合も低かった。 ドリゴ氏は、免疫系を多様な腸内細菌にさらすことは健康に良いと言う。「一般に、食糞を行う鳥は、行わない鳥よりもはるかに健康です」