放置森林は燃やして稼ぐ。西伊豆発循環モデル、次なるピースは「うまい」薪火レストラン
そもそもカヤックは極北の先住民が、狩猟や漁労のために使っていた乗り物。先人たちもきっとこんな感じで釣りをしてたんだろうなんて思いながら、毎日海に繰り出していたら、あるときにふと、これを事業化するアイディアが浮かんできて。 伊豆にはこんなに豊かな海がある。でも、一般的なカヤックツアーって景色を楽しませるものばかり。釣りという原始的で奥深い営みを通じて、海と山のつながりも伝えていけるんじゃないかと。 ── 「海と山のつながり」というのは、具体的にどういうことなんでしょうか? 海には河川を通じて山の養分が流れ込んでいます。そうするとプランクトンが発生し、魚たちが群がる。雨の後に魚がよく釣れるのはこのためです。では、この養分はどこで作られるのか。それは山の地表です。養分を海に届けられるくらいしっかりと生成させるためには、十分な量の太陽光を地表に届けないといけない。だから、適切な森林整備が必要なんです。 ── 海の豊かさは山に始まると。非常に連環的で面白いですね。 僕は西伊豆の豊かな自然の恵みを享受しながら生きてます。これからも伊豆の海で魚を釣りたいですし、山の中でマウンテンバイクも楽しみたい。それを次世代につなぐためにも、自分にできることをやっていきたいと思ってます。
薪火レストランで「丸」を完成させる
── 潤一郎さんの活動はご自身のあり方が、この地域の自然とシームレスにつながっているのが印象的です。ここから潤一郎さんの活動はどう進化していくのでしょうか? 実はこれから、地域の山で得られる広葉樹の木だけでエネルギーを自給する「薪火レストラン」をやろうと思っているんです。 きっかけは、とある立ち飲み屋に寄ったときのこと。厨房でお湯が使われるたび、目の前にあるガス給湯器のスイッチがピカピカ光っていたんです。それを見て、ふと飲食店でもウッドボイラーを導入できないだろうかってひらめいて。 ウッドボイラーなら暖房機能を担保しつつ、そのままオーブンとしても使えるし、熾火(おきび)を取り出して薪グリルで調理もできる。炭焼きが行われなくなり、切られなくなった広葉樹のストックは山に大量にあるし、それを今以上に有効活用できて最高じゃん、と。 ── 薪火料理は炭火のBBQとは違うのでしょうか? 大きな違いは温度ですね。炭火は燃焼温度が1000度を超える高温なのに対し、薪火は切った木を薪に加工してそのまま燃やすので、400~800度とやや低め。 だから薪火ならじっくり火を通せますし、薪の中の水分が蒸発しながら燃えるので、しっとりしているのにクリスピーだし、さらに少し燻されながら薫香が付いて......。この違いは食べた瞬間に分かるはずです。 ── 話を聞いてるだけでもおいしそうです。 薪火は人類最古の熱源ですから、僕ら人間にはその良さがDNAレベルで刻まれてるんだと思います。食べた瞬間に脊髄反射で「うまい!」ってなりますよ。こういったことも宿にウッドボイラーを入れて、自分たちが切ってきた木で薪火料理を提供したことで気付きました。 ── ガス火に慣れた現代人には新鮮な驚きがありそうですね。 先日ブルガリアのバンスコという地方都市に行ってきたんですが、向こうでは当たり前のように炭や薪で料理をしていました。隣国トルコのイスタンブールのような大きな都市でもそうでしたね。 でも日本のレストランではほとんど薪火は使われてません。薪火料理を謳っているレストランもなくはないのですが、大抵が割り箸のような小さな薪をちまちまと焚べていて、僕からしてみれば、それは薪火料理の本質とはかけ離れています。 ── ある程度の量がないと成立しないものなんですね。 そうですね。分厚いスキレットで焼くと目玉焼きでさえもおいしくなるように、たくさんの熾火で熱源たっぷりの方がやっぱりうまいんです。それには薪が多く必要になるけど、逆に言えば、日本中であふれている放置森林を活用するチャンスとも言えるんじゃないですかね。日本は世界的に見ても森林資源が豊かな国のはずなのに、それが国内で生かされていないのは、やっぱり何かがおかしいなと思います。