ポルシェ「912」は「911」の廉価版? いいえ、空冷フラット4エンジンを搭載した、別の個性の傑作スポーツカーでした【旧車ソムリエ】
4気筒OHVエンジンは予想を大きく上回る力強い加速感
これまでクラシック・ポルシェに造詣の深い方々から、しばしばポルシェ912というクルマへの賛辞を聞かされる機会があったのだが、じつを言えば、筆者はそのたびに少々懐疑的な印象を抱いていた。 今回の取材にあたって、久方ぶりにまじまじと観察してみると、912はビックリするほどにコンパクト。ショートホイールベース時代のボディはプロポーションも完璧で、清楚で可憐な美しさには陶酔させられてしまう。とはいえ、それはたとえ911であっても、最初期のナローモデルならば同じことである。 現在に至るまで車名をつなぎ、名作中の名作として誰もが認めている「911」に対して、4気筒で排気量も小さく、OHVヘッドの「912」をあえて選ぶ意義は、価格以外にはないのでは……? などと思っていたのだ。 でも、そんな机上のスペックに囚われた筆者の浅はかな先入観は、走り出してわずか5mほどで打ち砕かれることになった。 今回、国内クラシックカー業界を代表する名店「ヴィンテージ湘南」にお借りした1965年式ポルシェ912は、新車当時にオプション設定されていた5速MT仕様。そのシフトパターンは、リバースが左上でその下に1速がくる、いわゆる「レーシングパターン」である。 ちょっと曖昧なシフトフィールで知られる「ポルシェシンクロ」のシフトレバーを、手前に引き寄せるようにして1速に入れる。そして私有地内から街道に出て、まずは1速のままアクセルを踏み込むと、予想を大きく上回る力強い加速感を披露する。 2L時代のナロー911、とくにキャブレター時代はあるていど高回転まで引っ張らないとトルクが乗ってこないのに対して、こちらは2000rpmにも届かないうちからモリモリと加速し、2速、3速とシフトアップしてもトルクフルにスピードを上げてゆく。 また「シュルルルルッ!」という、少々神経質なフラット6サウンドが記憶に残るナロー911に対して、今回テストドライブの機会を得た912は、各バンクに1基ずつのウェーバー社製ツインキャブの吸気音が混ざった「ヴァルルルッ!」という、かなり豪快な咆哮を聴かせてくれるし、シフトダウン時のブリッピングなどもきれいにまとめるレスポンスも有している。