苗字を変えてまで潜入したユニクロ取材がバレそうになった瞬間 横田増生さんが指南する「潜入取材テク」
●日本で潜入取材が市民権を得ないのは、潔癖主義があるから?
ーー日本の新聞やテレビは企業への潜入取材はしておらず、それほど市民権を得ていないように思います。なぜでしょうか。 「潜入取材に対し、日本人の潔癖主義というか悪いことをしている、卑怯なんじゃないのという気持ちがどこかにあるんだと思います。法的には何も問題がないのに。イギリスではBBCなど大手メディアが潜入取材をしています。 1970年代に鎌田慧さんが、トヨタ自動車の組み立て工場に期間工として潜入取材した『自動車絶望工場』が大宅壮一ノンフィクション賞の候補に上がったときに選考委員から『卑怯だ』と声が上がりました」 ーー最近の取材手法として、SNSで企業の内部の人が告発してそれを取材して記事化するパターンも多いような気がしますが、潜入取材との大きな違いは何でしょうか。 「声を上げる人に話を聞くのは取材の王道ですよね。でもそれだと声が上がるのを待つことになりますよね。潜入取材は取りに行くという感じです。取りに行って空振りすることもあるけれども」
●「鳥の目とアリの目」で取材すれば見出しは立つ
ーー最近はネットで声を上げる人も結構多く、待っていても一定数の取材ができるので、そのほうが楽となっているのかもしれません。 「ただね、ネットで声を上げていない組織もありますよ。ユニクロはまず出てきません。守秘義務に縛られてしまっているからです。一企業の守秘義務よりも労働基準法のほうがずっと重いのに。この前、YouTubeでアマゾンとユニクロの話をしましたが、アマゾンは元従業員のコメントがたくさんついたのに、ユニクロはほぼゼロ。潜入は『しゃべらない業界・会社の話を取りに行く』んだと思いますね」 「それと最近、暴露系ユーチューバーがなんでも暴露する時代ですよね。潜入取材は公共性や公益性があるメディアがやってこそ広がりが出ます。アマゾンの問題について書いたのは、日本では僕としんぶん赤旗ぐらいです。でも本来は、朝日新聞や読売新聞やNHKが書かなければならない。GAFAと呼ばれる巨大企業の実態が分からないっておかしいじゃないですか」 ーー新著では、記者を志す人にお勧めの文章術の本も紹介しています。書籍化したい人が潜入取材する上でどんな意識が必要でしょうか。 「まず取材テーマを持って、取材する業界を絞るといいと思います。業界の歴史や労働環境から日本社会の何が見えるかということを考えてみる。裁判になっていたら傍聴しに行ってもいい。潜入後は日記形式で記録を書きためるといいと思います。どう章立てするかは取材内容によるけれども、業界全体を見る『鳥の目』と潜入現場の労働実態などを取材する『アリの目』、両方で見ると見出しは立ちます」