未だ見ぬ地平へ飛び込むためのバイク|Specialized S-Works Roubaix SL8
未だ見ぬ地平へ飛び込むためのバイク|Specialized S-Works Roubaix SL8
連載「峠の肖像」最新回において、標高2000mに位置するコマクサ峠を走った。ここは「天空のグラベル」と呼べる別世界。尾根道上にある峠だから、下りもあれば上りもある。空気の薄い砂利道の登坂に、ギアはもう最後の1枚になったが、存外にバイクは進んでいった。 スペシャライズドの提唱する「3 Icons」はブランドの中核をなす3車種Tarmac、Aethos、Roubaixを表現したもの。Tarmacには「勝利」、Aethos には「自由」が掲げられているが、今回信州にある天空のグラベルを走るために選んだのは、「挑戦」を体現するバイク、Roubaix。名前からして過酷さと切り離せない一台は望外の喜びを与えくれた。
酷な路面と結びつく車体名
Roubaixとは、何よりもまずパリ~ルーベのフィニッシュ地点、北の地獄と呼ばれるレースの最後の総仕上げとなる自転車競技場のある町の名前だ。しかし、もしかするとスペシャライズドが生み出したこのバイクの名前の方が、今は知名度を獲得しているかもしれない。 すでにモデルが登場して20年が経ったが、その期間はいわゆるエンデュランスロードの歴史でもある。多くのカーボンフレームが剛性を追求する時代に、衝撃吸収と快適性という一見真逆のアプローチで開発が進められてきたRoubaix。その開発姿勢そのものに「挑戦」を見ることができるが、その方向性が正しかったことは、今日のエアロロードが軒並み太いチューブレスタイヤを前提としていることに現れている。
Future ShockとAfterShock
Roubaixはその間にも独自の進化を続けていたが、このバイクを象徴するものははやりFuture Shockだろう。ヘッド部分に衝撃吸収のサスペンション機能を持ち込んだ先駆的な機構だが、アップデートも重ねており、現行のFuture Shock3。3ではロックアウトだけでなく、内蔵スプリングの差し替えによってサスペンション機能の強弱を選べる。ポジションや走行環境に合わせてプリロードを細かく調節し、好みの固さにセットできる。コンプレッションは路面に合わせて、走行中に細かく調節できるようになった。 快適性の確保はバイクのフロントエンドだけでは成立しない。名前からして振動緩和を志向するPavéシートポストと、このシートのクランプ部を下げることでしなりを確保するドロップド・クランプからなるAfterShockテクノロジーが、バイクのさらなる快適性を実現する。フロントに比べ地味ではあるが、両軸揃ってのRoubaixというバイクである。 S-Works Roubaix SL8を目の前にすると、自動的にTarmacとの相似が浮かび上がる。エアロロードとしての佇まいは、実際に直近のフルモデルチェンジで空力向上を図ったことによるものだが、見るからに戦闘力の高そうな外観である。これで完成車重量7。3kg(56サイズ)に仕上がっている。