「俳優はお金を稼ぐ手段だった」松重豊が下積みを乗り越えられた理由
60歳からも新しいことをやり続ける
――60歳の節目となりますが、何か変化したことはありますか? 松重豊: コロナ禍になったことで僕らの業界も、みんなががむしゃらに仕事をやるのではなく、そこまで根を詰めて働かなくてもいいのではという風潮が浸透しつつあります。そんな中で、僕自身も仕事の取り組み方が変わってきて、小説やエッセイを執筆したことは非常に充実した時間でしたね。芝居以外のことをやってみたいという欲望が今は上回っている感じです。僕と仲がいい若い友達に、星野源くんやオダギリジョーくんがいるんですが、彼らは鮮やかにいろいろなジャンルの境界線を越えていくんです。そういうふうにやりたいことのジャンルを越境していくことがうらやましくて、そんな彼らから刺激を受けて、自分もジャンルを超えて挑戦したいと考えるようになりました。 コロナ禍を経験した今、“現状維持”という言葉自体が嘘くさく聞こえる気がするんです。それは、去年と同じ日常を送ろうと思っても、世の中の状況がそれを許さない。“現状維持”を求めると退化していくことになるとさえ思っています。とにかく「新しいことをやり続ける」という意識を持たないと、うかうかと幸せな老後も送れないし、そうしていないと自分自身が“面白がれない”。それに尽きますね。 ----- 松重 豊 1963年、福岡県出身。俳優。ニナガワスタジオを経て舞台、映画、テレビドラマなど幅広く活躍。『孤独のグルメ』(テレビ東京)で連続テレビドラマ初主演し、10年以上続く人気シリーズに。現在、 NHK大河ドラマ『どうする家康』に出演中。2020年には、初の著書となる小説&エッセイ集『空洞のなかみ』(毎日新聞出版)を刊行。また、庭園デザイナーとして活躍する禅僧枡野俊明さんとの対談をまとめた書籍『あなたの牛を追いなさい』(毎日新聞出版)が発売中。