「俳優はお金を稼ぐ手段だった」松重豊が下積みを乗り越えられた理由
「どんな役でも面白がる」刺激を受けた仲間の存在
――“職業俳優”として、どんなことを心がけていたのでしょうか? 松重豊: これまでいろいろな役をやってきて、昔は宇宙人やゾンビ、最近では猫役などを演じてきました。自分は身長が大きくて見た目も怖かったので、年間20回ぐらいヤクザ役もやっていました。それで同じ言い方をしても面白くないので、ちょっとずつ自分が面白がれる範囲で変えていくんです。そういうことをやっているなかで、横で同じようにヤクザ役をやっている遠藤憲一さんや光石研さんを見てみると、2人ともちょっとずつ言い方を変えて面白がっていました。脇役であるヤクザの芝居でも、ここまでニュアンスを変えてくるのかと刺激を受ける。そういう人たちが横並びにいっぱいいたんですよね。そんな彼らが“バイプレイヤーズ”と呼ばれる人たちになっていった。そうやって学んだ、小さい役の膨らませ方や、そこに対しての面白がり方というのは、今につながっていることだと思いますね。 結局、面白がることというのは、全ての環境において共通すると思うんですよね。お金がないから、そこでやっつけ仕事として腐ったら元も子もないわけです。お金はないけど時間に余裕があるなら、がむしゃらにいろいろなことを考えて、自分で面白がる。どんな状況でも、解決策を考えている時間を自分は楽しめるタイプだと思うので、逆境といわれる時の方がアドレナリンが出ている気がしますね。 ――仲間の影響は大きかったんですね。 松重豊: 刺激を受けたということでいえば、僕が20代で大学演劇を始めた時に日本大学芸術学部の1学年上に三谷幸喜さんがいて、同じように芝居をやっていたし、ミュージシャンとして活躍している甲本ヒロトくんがバイト先の友達だったり。今思うと、偶然そういう輪の中に入ったというのは、奇跡というより必然だったのかもしれないなと。縁というのは、やはりあると思っています。なので、僕自身もそういう渦の中に巻き込まれたというのは、非常に幸せに思いますね。