「大人が過熱して子どもを置き去りにしないで」スポーツに励む子どもを支える大人に、大山加奈が伝えたいこと
1月4日~8日、全日本バレーボール高等学校選手権大会(通称=春高バレー)が開催されている。2002年に同大会で全国制覇を経験し、五輪や世界選手権などでも活躍したのが、元バレーボール女子日本代表の大山加奈さんだ。ひたすらに日本一を目指していた当時とは違い、「部活動のあり方が多様になってきた」と実感しているという大山さん。ただ、一方で精神的に追い詰められる指導が根強く残っており「心身ともに苦しんでいる選手たちに出会うことも少なくない。大人だけが過熱して、子どもたちが置き去りになっている状況もある」と語る。部活動やスポーツを取り巻く環境の変化について、大山さんが思うことを聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
根強く残る“勝利至上主義”。心身ともに苦しむ選手たちも少なくない
――大山さんはバレーボール選手として活躍をされていましたが、当時はどのような心境でバレーと向き合っていたのでしょうか? 大山加奈: ずっと日本一になることしか考えていませんでした。当時は自分の体が壊れようが、目の前の勝利だけを考えて、将来を全く考えずにプレーをしていたんです。その結果、小学生の頃から腰に痛みを抱え、通常はご高齢の方が患う「脊柱管狭窄症」を20歳代で発症し、選手生命が絶たれてしまいました。 ――当時と現在で、スポーツを取り巻く環境に変化を感じることはありますか? 大山加奈: 私たちの頃は「部活=勝つことだけを目指す場所」になっていましたが、今は部活動のあり方が多様になってきたと感じます。 ただ、まだまだ“勝利至上主義”が根付いている部活動が多いのも事実です。実際に、勝つことしか考えていない指導者の指導に苦しむ子どもたちも多く、そういった子どもたちの親御さんから、SNSのダイレクトメッセージを通じてSOSが届いています。 私は全国各地の小学生や中学生のもとに指導に行きますが、多くの子どもたちが、若くして体に怪我を抱えているんですよね。中学生で腰の手術をしていたり、腰椎すべり症(腰椎がずれることで神経などが圧迫される症状)を患っていたり。 そういった子どもたちを見るたびに、大人たちが「何のためのスポーツなのか」という原点に立ち返らないといけないなと思います。子どもたちが自分たちの意思でひたすら勝利を目指しているならまだしも、周りの大人たちが一緒になって過熱してしまったり、子どもたちが置き去りになってしまったりする状況は非常に良くないですね。 ――現役当時と比べて、指導者のあり方に変化を感じることはありますか? 大山加奈: 勝利よりも、技術面やメンタル面、栄養面の指導、身体的なケアのほうが重要だという発想に、ゆっくりですが変化していますね。 目に見えた暴力や体罰も無くなりつつありますが、一方で精神的に追い込むような指導は未だにあると感じていますし、まだまだ本当に強い人だけが生き残る世界なんだと感じます。そういった背景には、指導者自身が昔の指導しか知らない、自分たちが受けた指導しかわからないというのも大きいですね。指導者が勉強をして、自身の知識をどんどんアップデートしていくべきだと思います。 ――2023年から段階的に、公立中学校の部活動の地域移行が始まりますが、この状況についてはいかがですか? 大山加奈: 部活動の地域移行や部活動の環境を変えようとする動きには、基本的には賛成です。ただ、移行期にあたる子どもたちは混乱しないかなという不安もあります。まだまだ議論が必要な問題はありますが、さまざまなケースに応じて柔軟に対応ができるようになったらベストですね。