直木賞作家・今村翔吾氏が神保町に上げる「本屋さん」再興の狼煙
この30年は本と何か、の「組み合わせ」の時代
今村:この30年は「本と何か」を組み合わせる売り場づくりですね。雑貨、DVD、カフェ、最近は衣類もありましたが、だんだん効かなくなっている。今はガチャガチャを入れた売り場が増えていたり、あと、変わり種でいうとトルコ料理屋さん併設の本屋さんがあったりとか。 スパイシーな香りのトルコ料理と、本。なかなか想像がつかないですね。 今村:そう、大丈夫なんかいな、と思ったんですけど、やってみたら面白い試みですよね。だから、それほどみんながすでに組み合わせを試行錯誤しているんですね。で、僕は、「できれば本と本の組み合わせで成り立つ形はないか」ということで、シェア型書店について、ずっと研究をしていたんです。 そのシェア型書店という業態がどういうものなのか、実は私にはよく分からないのですが。 今村:簡単に言うと、店の中に小さな本棚をたくさん置いて、その棚をさまざまな人に借りてもらって、借り主さんがそこに好きな本を置いて売る、というものです。 秋葉原のレンタルショーケースのようなイメージなのですね。これはいつぐらいから町に登場したのでしょうか。 今村:僕、相当調べたんですが、めちゃくちゃ諸説あるんですよ。東京が初やという人もいれば、いや、大阪やという人もいて、大阪発祥ぽいなとは思っているのですが、今、盛り上がっているのは東京方面なんです。 どのあたりで盛り上がっているのでしょうか。 今村:神保町、中野、西日暮里、西小山とか、あと千葉県や神奈川県にもあります。たぶん全国に50店舗ぐらいで、まだ本当に小っさな流行なのですが、刺さる人には刺さっています。ただ、経営や運営のルールもまちまちで、ボランティアみたいにやっているところもあれば、儲けているところもある、と。2022年3月に仏文学者の鹿島茂さんがプロデュースした「PASSAGE by ALL REVIEWS」が東京・神保町にオープンして、話題になりましたね。今年3月に3号店ができました。 ●シェア型書店をムーブメントに 棚の借り主を集めることができれば、収益は見込めるでしょうね。となると、書店ではなく不動産業というとらえ方もできますね。 今村:そうとも言えて、本を扱って儲けられるなら大いに結構や、と思うのですが、これまで大手書店はそこに本気で取り組もうとしてこなかった。シェア型書店という業態が、海のものか山のものか分からんから、という理由がそこにはあって、コストの割には儲からないだろうと、たぶん踏んではると思うんです。 あと、この業態が都市だけでなく、全国にまで波及させられるものかどうか、ということに対しても懐疑的なんだと思います。 フィギュアを転売するショーケースにしても、ユーザーが多い東京にあって、しかも全国、全世界から人が集まる“AKIBA”だからビジネスになるんだよ、とは思いますよね。 今村:反対に、本好きな個人が趣味で小さくやっている場合もありますよね。かかわっている人の満足度は高いと思いますが、その先に大きく広げていくビジョンはあんまりないパターンが多い。これはもう当然というか、しょうがないんですよね、個人の趣味だから。 でも、こういうムーブメントがあるなら、次にそれがどのように再投資されていくのかということに、僕は興味をかき立てられるんです。趣味であれ、ビジネスであれ、利益が出るのだったら、それを全国に広げていったり、別のムーブメントをつくっていったりと、出版業界に新しい波を起こしていく、そんな対流を生み出したいんです。