直木賞作家・今村翔吾氏が神保町に上げる「本屋さん」再興の狼煙
今村:もちろんPOSによってある程度は追えます。しかしながら、商品が凄まじい勢いで行き来するので、書店では当月の月次決算を出すのが難しいし、日次決算を出すのはもっと難しくなってくる。これを完全に追跡するシステムは、大手書店でも数社しか持っていないようです。 そうなんですか。 今村:商品の話で言いますと、大きな区分として雑誌と単行本・文庫がありますが、雑誌の仕入れからの請求と、本の仕入れからの請求の時間軸もずれています。帳簿上は大丈夫でも、いつの間にか在庫が増えていたり、減っていたりする。ほかの小売りよりもややこしくて、未経験者がスタートさせるのはかなり難しいというか、管理しづらいビジネスだと思います。 考えてみればほぼ全ての商品が単品管理ですから、棚卸しだけでも大変そう。今まで、それがよく成り立っていましたね。 今村:過去、本屋さんというビジネスが好調だった時代には、たとえどんぶり勘定でいても、がっさがっさ、何か知らんけど増えていた、ということだったんだと思うんです。 『小学一年生』とか『二年生』とかがぼんぼん売れていた時代ですね。収益性が高く、定常的に売れる雑誌の売り上げが書店を支えてきた。それがネット時代の到来で……。 今村:そう、雑誌の時代が過ぎ去り、ビジネスがますます難しくなった。 それで、「もうあかん、閉店します」という時に、在庫が1000万円あるはずだから、それを出版社に戻して1000万円の現金に換えようとするじゃないですか。でも、なぜか800万円しか換金できない、という事態になっていて、それが倒産の引き金になるんです。 なぜ200万円が消えているんでしょうか。 ●「在庫を減らして運転資金に」で首が絞まる 今村:要は自転車操業の中で、たとえば誰かの給料を払わなあかんために、ちょっとずつ返品をして、現金をつくっていた。それらが累積して200万円が消えていた、そういうことが書店の経営では起こるんです。 僕が2021年に事業継承した箕面の「きのしたブックセンター」も当初はそういう状態で、赤字を補填するために返品量を増やして、仕入量を減らすことを繰り返した結果、店の中がスカスカになっていました。 これって、点滴みたいにちょっとずつ、ポタポタと落ちていく感じなので、分かりづらいんです。それで気がついた時には、取り返しの付かないほど出血しているという。 うわ。 今村:さらに怖いのは、在庫を減らすとお客さんが離れてしまい、ますます本が売れくなることです。そして「売れない店」のレッテルを取次(※)から貼られてしまうと、配本が滞ります。 (※取次:とりつぎ・出版取次ともいう。出版社と書店の間で流通を担う我が国独自の業態。最近は直接流通を行う書店、出版社も増えている) ですので、どこかのタイミングでつなぎ融資が得られて挽回しようとしても、再仕入れができない。本が回ってこない状況を逆回転させることは、めちゃめちゃ難しいんです。 うーん、本当は怖い書店ビジネスなんですね。