直木賞作家・今村翔吾氏が神保町に上げる「本屋さん」再興の狼煙
書店の経営はハードルが高すぎる
ムーブメントというと、たとえば「棚を借りた人がいずれ独立して書店を持つ」といったことでしょうか。 今村:それは一つの大きな目標ですね。「棚」から「店」へとハコを大きくできる道筋を作れたらと考えています。 「書店を経営して、何がしたいんですか?」と、よく聞かれますが、僕は最終的にシェア型書店から得たお金が、本好きな人の独立の資金になるような仕組みまでつくっていきたいと思っているんです。 棚の借り主が「自分の本屋を持ちたいんです」といった時に、取次、書店人のネットワーク、融資など、いろいろなところにつないで、その夢を実現に導いていくようなシステムを用意したいと思っています。 そもそも書店の開業って、ハードルが高いのか、低いのかもよく分からないのですが。 今村:書店を1個つくろうと思ったら、規模にもよりますが、在庫などを含めて初期投資で1000万円は確実に行きます。 えっ、1000万円?! そんなに行くんですか? 今村:行きます。逆に飲食の方が安く行けるぐらいです。飲食なら僕んとこの町の居抜きで400~500万円ぐらいで開店できます。タピオカティーみたいなスタンドタイプなら、200~300万円。 本屋さんの大きな設備投資は、本棚と照明くらいかなと思っていましたが。 今村:その点でいうと、書店はハコよりも在庫にお金がかかるんですよ。 10坪ぐらいのハコだけだったらイニシャル(コスト)は200~300万円なんです。ただ1坪あたりで40~50万円ぐらいの本を入れなあかんので、それで500万円。20坪やったら1000万円ってなるんですよ。この初期費用が結構しんどいんです。 ただ、本には再販制度がありますよね。 ●再販制度が在庫管理を難しくしている 今村:はい。本は再販制度によって定価で販売する一方、在庫を返品できるという、よそにない特殊な性格を持つ商品なのですが、とはいえイニシャルでは結構かかります。 そして再販制度を持つこの商売の怖いところは、在庫管理がすごく難しいこと。僕は実際に書店を経営して、それを身に染みて感じています。ふと気がついたら大赤字を食らっているというパターンが、普通にあるんですよ。 どういうことですか。 今村:再販制度のおかげで、売れているから在庫しておきたい本、この先返品する本、これから仕入れる本、と、同じ本という商品でも、経営上の価値がまったく違うものが併存しているので、実態がつかみにくいんです。 株式のポートフォリオを連想しますね。 今村:ああ、株でいうところの、信用取引にちょっと似ているかもしれないですね。元のお金以上の額を動かしまくっているうちに、気付いたら追証(※)が必要になってくる。そんな状況になったりするんです。 (※追証:おいしょう・株式の信用取引で損失が膨らんだ際に求められる、委託証拠金の追加のこと。投資家にとっての弱り目にたたり目) それこそDX化というか、POS(販売時点情報管理)システムの出番のような気もしますが……。