1秒間に716日が過ぎる! 自転が最速の中性子星の1つ「4U 1820-30」を発見
あなたがこの記事を開いてここにたどり着いた段階で、その星では数千 “日” が経過している……。宇宙には驚くべきことに、このような天体が存在します。 デンマーク工科大学のGaurava K. Jaisawal氏などの研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたX線望遠鏡「中性子星内部組成観測装置(Neutron Star Interior Composition Explorer; NICER)」によって観測された中性子星の1つである「4U 1820-30」のデータ分析を行いました。その結果、4U 1820-30は1秒間に716回転という、極めて高速な自転をしていることが明らかにされました。この極端に高速な自転に匹敵する天体は他に1個しか見つかっておらず、知られている中で最も高速で自転する天体の1つとなります。
物質の究極の状態「中性子星」
宇宙には多種多様なタイプの天体がありますが、中でも「中性子星」は最も興味深い天体の1つです。中性子星は、質量が太陽の8~30倍くらいの天体が、その寿命の最期に残す中心核の名残であると考えられています。 中性子星は平均密度が1立方cmあたり10億tという超高密度な天体であり、原子核同士が距離を置かずにギッチリ詰まった状態となっています。内部では原子核すらその形を保てず、流動性の高い素粒子の “スープ” になっていると言う説もありますが、詳細は不明です。このことから、中性子星は物質の究極の形態の1つと表現されることもあります。 中性子星の性質は余りにも極端であるため、現状の理論では性質を描き切ることができず、加速器などの実験で再現することもできません。このため、中性子星を詳細に観測することで、知識のギャップを埋めようと試みる動きがあります。
ISSのX線望遠鏡で観測された「4U 1820-30」
ISSに2017年に設置された「NICER」は、名前の通り中性子星の物性と内部構造を知るために設置されたX線望遠鏡です。個々のX線の到達時間を100ナノ秒(1000万分の1秒)未満で計測可能であり、その詳細なデータから中性子星の性質を探ることができます。 Jaisawal氏らの研究チームは、NICERが観測した中性子星の1つ「4U 1820-30」の観測データの分析を行いました。4U 1820-30は、2017年の観測開始時から注目されてきた中性子星の1つであり、地球から約2万7000光年離れた位置にある球状星団「NGC 6624」の中にあります。 4U 1820-30が注目を集めていたのは、珍しい「超コンパクトX線連星(Ultracompact X-ray binaries; UCXB)」であるためです。UCXBは恒星の伴星が中性子星かブラックホールであり、お互いの公転周期が数時間未満であるような連星ですが、4U 1820-30は中性子星のUCXBの中では最も短い、たった11.4分の公転周期を持ちます。連星の距離は短いため、普通の恒星はここには存在できません。このため4U 1820-30の恒星は、表面の水素が剥がされ、通常は恒星内部に隠れているヘリウムに富む層が剥き出しになった「ヘリウム星」であると考えられています。 中性子星は強大な重力で恒星からヘリウムに富むガスを引きはがして蓄積します。その量が増えると、核融合反応が発生し、短時間ながら膨大なエネルギーを放出します。これを遠く離れた地球から見ると、4U 1820-30は10~15秒間だけ継続するX線バーストを放出します。 Jaisawal氏らは、このX線バーストについて詳細に検討しました。バースト中に放出されるX線は、中性子星の表面というよりも、中性子星の表面から拡大した光球の表面から放出されたように見えます。これは降り積もった物質の核融合反応で放出されるエネルギーが、比喩的な意味ではなく文字通り核爆発が起きたような状態となり、エネルギー放出の表面が球状の光として拡大するためです。光球は中性子星本体の数倍から数十倍の大きさにまで拡大します。 この光球の拡大と、そこから放出されるX線の波長(エネルギー)は、中性子星自体の自転速度に影響されて振動する(コヒーレント振動)ことが知られています。振動は非常に弱いために観測が難しいものの、中性子星自体の自転周期をそのまま反映していることが分かっているため、NICERによる観測が期待されていました。