なぜ高木菜那は“呪われたコーナー”で転倒の悪夢を繰り返してしまったのか…左足に蓄積した疲労とブレードに異変発生の可能性
「踏ん張りどころで(左足の)エッジが少し抜けているように見えました。カーブがきついところで攻めすぎたのかもしれません。ウォームアップレーンも使う分、他の種目よりも急カーブとなって遠心力も大きくかかります。16周滑るなかで筋肉中に乳酸もたまった状態でそうなると、ちょっとぶれただけでもバランスを崩してしまうので」 レース直後にこう解説していた岡崎さんは、その後に靴を脱いでブレード(刃)をチェックしている高木の映像を確認。 テレビ朝日系「サタデーステーション」に出演した際には、高木のブレードに不具合が生じていた可能性にも言及している。 「接近戦ですので、刃と刃がぶつかってしまうんですよね。その結果として刃が少し欠けてしまったというか、残念ですけどその影響もあってそういうことになったのかなと」 マススタートは平昌五輪後に、安全面が考慮されてルールが改正されている。しかし、実際には1回戦と決勝を通じて、コース取りをめぐって集団のなかで身体のぶつけ合いや腕の引っ張り合いが繰り返されたと佐藤は決勝後に明かしている。 選手同士が前後左右に接近して滑るため、岡崎さんが指摘したようにブレードが接触するケースも少なくない。薄さ1mmに研ぎ澄まされたブレードに異常が生じていたとすれば、遠心力が最もかかるカーブで左足がアウトエッジに乗れずにすっぽ抜け、それをこらえるだけの筋力が高木の脚に残っていなかった状態も説明がつく。 高木が言及しかけたのは、もしかするとブレードの異変だったのかもしれない。これならば「スケートが持っていかれちゃった感じ」という言葉とも一致する。それでも他の選手も同じとばかりに、言い訳と受け止められる言葉を封印した。 高木も佐藤も、2020年3月のワールドカップ最終戦を最後に、マススタートのレースを経験していない。昨シーズンは新型コロナウイルス禍で海外遠征が自粛され、今シーズンは最大のターゲットにすえた1500mに注力してきたからだ。 ゆえにルールが改正されたはずのマススタートが、実際には従来とほとんど変わらずに今大会を迎えていた情勢を把握できていなかった。実際、決勝のフィニッシュ直前には佐藤も横から入ってきた選手と接触し、まさかの失速を強いられている。 フラッシュインタビューで「どういうレースをすればいのか、わからない部分がたくさんあった」と漏らしたのは高木の本音だろう。駆け引きや戦略で後手を踏み、体力を削がれても、それでも集大成と位置づけた3度目の五輪を終えた高木は胸を張った。 「思い描いたようなオリンピックにはならなかったし、自分が望んだ結果にもならなかったけど、それでも心に残るオリンピックにはなったかなと思っています」