なぜ高木菜那は“呪われたコーナー”で転倒の悪夢を繰り返してしまったのか…左足に蓄積した疲労とブレードに異変発生の可能性
さまざまな駆け引きや戦略が交錯し、通過ポイントが近づくたびにペースがアップダウンするなかで、身長155cmの高木は大柄な他国の選手たちの集団に、何度も内側のコースを遮られている。3200mの通過を前にして一度ラップを上げたものの、横に広がった状態で前を滑る3人を抜けないと判断してペースを落とした。 レースを見守った佐藤は、こんな言葉を残している。 「菜那さんはずっと外側を滑らされて、疲れてしまっていた」 通過ポイントがゼロのまま突入した最後の4周。連覇をかけて決勝へ進むためにはフィニッシュ時に1位へ60点、2位に40点、3位に20点、4位に10点、5位に6点、6位に3点がそれぞれ与えられるポイントを獲得するしかない。 覚悟を決めた高木は、ラスト1周で大外から仕掛ける作戦に出た。 しかし、外側のコースを滑り続ければ、必然的に内側を滑り続けた選手よりも長い距離を滑る。前方の選手を風よけにできなかった分だけ、空気抵抗を受け続けた身体からは体力が削られる。実際、高木はレース後にこんな言葉を残している。 「本当はもっといい位置に、ずっと(外国勢の)後ろについていきながら、もうちょっと楽にコースを取っていくレースをしたかったんですけど」 それでも高木は歯を食いしばってトップに立ち、ウォームアップレーンの最も内側を死守した状態で最終コーナーに突入した。しかし、その中ほどで転倒。 マススタートを生中継していたヨーロッパのスポーツ専門チャンネル「ユーロスポーツ」のコメンテーター、カールトン・カービー氏はまさかの瞬間をこう実況している。 「ああ、彼女がいなくなった! 彼女がいなくなった! アンラッキーだ! 何ということだ! ここから彼女らは前回王者なしでレースをすることになる。彼女にとって何という悲劇だろう。最悪だ。高木菜那は(レースに勝って)両手を挙げようと準備していただろうが、そうはならず、メダルも逃すことになった。絶望的なことが起こった」 絶望の二文字を突きつけられても必死に立ち上がり、フィニッシュラインを超えた高木の獲得ポイントはゼロ。無念の思いを覆い隠し、第1組を2位で突破した佐藤へ笑顔でエールを送り、決勝後は8位に入賞した後輩のサポートに徹した。 迎えたフラッシュインタビュー。転倒した場面にも自らの言葉で言及した。 「エッジングとかがぶつかってしまって、左足が結構いうことをきかなくなっていたのもあって、ラスト、足にきて転んだというよりスケートが持っていかれちゃった、という感じだったので。何か今回の……まあ、そうですね、という感じです」 高木は何かを言おうとして、思い出したように飲み込んだ。その胸中を、レースを生中継した日本テレビでスタジオ解説を務めた、長野五輪500mで銅メダルを獲得した岡崎朋美さんは、果敢にインコースを攻めた代償ではないかと指摘している。