目的地を外す、日時・時間帯を外す、人混みを外す……「はずし旅」の効用
目的地の隣の駅でうまい店探し
最近の私のルールに「目的地の前後駅で下車し宿泊する」というのもあります。東京を筆頭に大阪や京都など大都市圏や人気観光地の宿泊料金が高騰する中、少しでも安くあげたい、でも泊まる楽しみも失いたくない。そんな時、出張先で面白いことに気づきました。近隣の町だと宿泊料金がそれほど上がっていないのです。名古屋出張の時は東海道新幹線で隣の三河安城駅で降りて、駅近の手頃なビジネスホテルにチェックイン。荷物を置いたら近くを歩き回り、今宵の晩酌の店を探索しました。気分は『孤独のグルメ』の主人公です。三河安城駅構内の串カツ店はなんと1本110円という駅ナカとは思えない良心価格で大満足でした。 軽井沢取材の前夜は高崎駅で下車。チェーン店が多い街ですが、目指すは「高崎絶メシ」。高崎市が長年地元で愛されてきた個人経営の店を「絶メシ」としてリスト化し、情報サイトで発信しているのです。どこも味わいある店ばかりですが、店主の高齢化や後継者難などで閉店する店も少なくなく、まさに今、食べておかないとなくなってしまいそうな絶滅寸前の逸品が味わえます。その晩は地元の常連客でにぎわう町中華を堪能。餃子350円、定食750円と、庶民にありがたい、いつまでも残ってほしいお店でした。見知らぬ土地に行くと、「あそこ良かったよ」といえる店に出合えることがあります。それが自分らしい旅につながる経験になると感じています。 実はこの「はずし旅」、新型コロナがまん延していたときに私たちが生活するうえで心がけていたことだったと気づきました。あのときに身に付いた行動様式を楽しいものへと変換したのが「はずし旅」。当時とは異なり、今はいつでも自由に旅行を楽しめるようになったありがたさを噛みしめながら、新しい旅のスタイルや、知らなかった場所の魅力を発見することができます。そして、お得に楽しめるのがうれしい。誰でも気軽にやってみることができるうえ、旅の経験値も確実に高まります。ぜひ次の旅に役立ててもらえたらと思います。 文・写真/寺田直子 トラベルジャーナリスト。東京都出身。旅行会社勤務を経て独立。旅歴40年で訪れた国は約100か国。新聞、雑誌、ウェブなどに寄稿し、『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)など著書も多数。現在は東京都の伊豆大島に移住。近著に『東京、なのに島ぐらし』(東海教育研究所)。 ※「旅行読売」2024年12月号の「5000円で満足旅」より