【毎日書評】腹をくくれ。動く大地=日本に住む、私たちが大震災に備えるべき「リスクヘッジ」
「分散」という知恵
人類が経てきた自然との関わりを振り返ると、今日の地球環境問題は、西洋で始まった「科学革命」の価値観から脱却しなければならないことを教えてくれます。 何事も進歩するという考え方にとらわれて物事を決める時代は、すでに終わったのではないでしょうか。(242~243ページより) こう語る著者は、東日本大震災以降、自然を支配する価値観は崩れ去ったように思うのだそうです。そして地球科学の最先端にいる科学者たちはいま、新しい視点で地球環境と人類の文明のあり方について多角的に考え始めているようです。 日本列島は世界有数の「動く大地」ですが、西洋の大地がこれほどまでに動くことはありません。しかし私たちの祖先は、変動帯の大地のうえで何十万年も生き延びてきたわけです。 そのため、大地の動かない西洋で生まれた考え方から脱却し、日本列島という変動帯の自然と向き合った生活スタイルが必要ではないかというのです。たとえば、「足るを知る」ということ、自分の身の丈に合った生き方をすること、地面が動いても動じない決心が、いまこそ要求されているのかもしれないのです。 文明の進展に従って、人と富と情報が大都市へ集中し始めました。この集中が何十年も継続し、東京やニューヨークなどのようにメトロポリタンが肥大化しすぎると、思わぬ弊害が生まれます。 超高層ビルは長周期の地震に対して非常に脆弱なのです。大事なポイントは、人口過密状態に陥った都市の過剰エネルギーをコントロールし、的確に「集中」と「分散」を図ることです。(243~244ページより) 過剰エネルギーを合理的にコントロールしないと、自然災害を極端に増幅させてしまうということ。具体的には、「西日本大震災」が起きる前に、速やかに人口・資産・情報のすべての点で地方へ分散し、少しでもリスクを減らすことが大切だといいます。 そもそも生物は、エネルギーさえ得られれば際限なく増殖するものです。増え続けてある閾値を超えると、その瞬間から集団が崩壊し絶滅に向かうのです。もし放っておかれれば、すべての個体が「集中」する方向に進んでしまうでしょう。 しかし、こうした流れは決して不可避なものではありません。高度な脳を持つ人間は、意識的に「分散」を図ることができます。(244ページより) これは地方分権といった行政上の話だけではなく、政治・経済・資源・文化・教育の全分野にわたって必要な行動だそう。 つまり、過度の集中の弊害に気づいた時点で、分散を敢行して「リスクヘッジ」を行うべきだということ。それこそが、世界屈指の変動帯である日本列島に住み続ける最大の知恵となるのかもしれないというのです。(242ページより) 著者によれば、地球で起きる活動では、災害と恩恵が表裏一体の関係にあるのだそうです。したがって、そうした両面を知っておくことは、迫り来る危機を避ける「心のゆとり」を持つことにつながっていくわけです。 いいかえれば、「災害を正しく恐れる」知識を身につければ、落ち着いて自力で行動し、被害を最小限に抑えられるということ。だからこそ、ぜひとも本書を読み込んでおきたいところです。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! Source: SB新書
印南敦史