タクシー業界の活路は? ウィズコロナ時代、生き残れるか【#コロナとどう暮らす】
タクシーが飲食物を宅配
タクシー需要が縮小するなか、国交省は4月21日、タクシー事業者が特例的な許可を受けることで、飲食物に限り有償での運送を認めると発表しました。本来、貨物事業をするには国交省から許可を得る必要がありますが、タクシー需要が落ち込む一方で、飲食物の宅配ニーズが増加している状況を踏まえ、国は期間限定で認めることにしました。これにより、タクシー事業者はこの特例許可を受ければ、出前館などの配達事業者のように飲食物の宅配が行えるようになりました。 あくまでも特例措置ということで、当初は5月13日が期限でした。しかし、全国のタクシー事業者から申請する動きが広がったことから9月30日まで期間が延長されました。国交省自動車局によると、この特例許可を受けたタクシー事業者は、7月10日時点で、全国で1625事業者(法人タクシー1600社・個人タクシー25人)にのぼります。 先述の日本交通も、特例許可を受けました。落ち込んだ売り上げをどの程度穴埋めできるか不明なものの、「こういう時期だから何でもチャレンジすべき」と判断し、4月25日から飲食物のデリバリーを開始しました。広報担当者は「まだ件数は少ないものの明らかに新たなニーズがあったという手応えを感じています。恒久的な制度になれば、新しいサービスとしてもっともっとご利用いただけるようになるんじゃないかと思います」と、期限を区切らない措置を期待します。 このタクシーによる飲食物デリバリーについて、国交省の一見勝之自動車局長は5月27日の衆議院国土交通委員会で、「恒久化ということも念頭に置きながら考えていきたい」と発言し、恒久化に含みをもたせました。ただ、7月17日に国交省自動車局に問い合わせたところ「10月1日以降も続けるかどうかはまだ白紙」としており、今後どうなるかはまだ分かりません。
識者「他分野に進出せよ」
大阪府河内長野市の乗り合いタクシーを運営する委員会に名を連ねるなど、地域公共交通の改善に関わってきた近畿大学経済学部の新井圭太准教授(交通経済学)は、「タクシー業界は、今後も人々の暮らしに貢献できるメリットを十分持っているが、それを生かしきれていない」ともどかしげに語ります。 新井准教授はタクシー業界が貨物事業や乗合事業という同じ自動車を用いるいわば「お隣」の事業へ進出することを提言しています。貨物事業なら今回の特例許可のようにタクシーを使った飲食物のデリバリーやネット販売の商品配送サービスなど。乗合事業では、他人同士を乗車させ、路線バスのように決められた路線を決められた時間で走るタイプや、乗客の乗り降りする場所や時間に合わせてルートと運行時間を変えるタイプの展開が考えられると言います。いずれも、貨物事業許可、乗合事業許可を受けるなどの条件をクリアすれば実現可能です。 両事業とも既存事業者が存在します。しかし、「貨物については、ネット通販が急増する中、宅配業者はドライバー不足などによって需要をまかないきれない恐れがあります。ネット販売はますます拡大して供給がひっ迫すると予想されますので、タクシーが宅配輸送の一部をまかなう余地は十分あるでしょう」と新井准教授は述べます。乗合についても、バスが定員11人以上の車両を使うのに対し、タクシー車両は最大でも定員10人以下であるため、需要の大小でバスとタクシーのすみ分けは可能と見ています。 新井准教授は、「人口減少と少子高齢化が進む中、地域における輸送手段もダウンサイジング化が求められます。タクシー業界は、従来の営業スタイルにとらわれず、外の世界に事業を拡張して新たなビジネスモデルを構築してほしい 」として、積極的な挑戦を期待しています。 (取材・文:具志堅浩二) ※この記事のコメント欄に、さらに知りたいことや専門家に聞いてみたいことなどがあればぜひお書きください。次の記事作成のヒントにさせていただきます。