世界に先駆けてIoT分野を開拓したコマツ、建設機械の在り方を変えた特許戦略「Komtrax」とは?
Komtraxがコマツの経営を変えた結果が、この辺に出ていると僕は思っています。2001年に赤字になってリストラまでやった。そこで「二度と赤字を出さないぞ」という決意のもと、Komtraxに力を入れ始めて、きちんと結果を出したわけですね。 そもそも、Komtraxはかなりコストがかかる装備なので、それを標準装備にするなんて、赤字のときに打つ手じゃないですよね。 でも、二度と赤字を出さない打ち手だと考えたら、つじつまが合うかなと思っていただけるでしょうか。 先ほどKomtraxについて、建設機械に取り付けられたセンサーで建設機械の稼働状況などをモニタリングするシステムだ、と言いました。では、モニタリングできると何がいいのか。例えば、稼働状況がわかれば、もっと建機が売れそうかどうかわかります。 つまり、Komtraxのデータに基づいて生産の計画や部品発注の調整ができるようになります。鉱山で使う大型の建設機械は、単価が高くて納期がものすごく長い。ほしいって言われてからでき上がるまでに時間がかかるので、需要予測は重要なんですよね。 その他、オーバーホールやメンテナンスのタイミングなど、稼働状況からわかることは、いろいろあります。 Komtraxがコマツの経営の屋台骨だ、と言っているのはこういうことなんです。 在庫を少なくすることと、機会損失を生じさせないこととのトレードオフの解消は、どの企業でも悩みの種ですが、建設機械のような大型の産業機器の場合、特に難しかったわけです。 コマツはKomtraxで、この難問を完全にクリアしたんですね。それがコマツを、リーマンショックを含む「危機に強い」強靭な会社にしてくれていると、僕は考えています。
■ Komtrax誕生と成功の歴史を振り返る そもそもKomtraxがどうやって生まれてきて、どういうふうに成長してきたのか、気になりますよね。 ここでは、Komtraxという画期的な「IoT」システムに関するコマツのイノベーションの歴史を、少しお話ししましょう。 特許を見る限り、Komtraxに関する最初の発明というか、基本になるコンセプトの発明は1997年にされています。前述の坂根さんは、1998年ごろに建機の盗難や建機によるATM強盗が多発していたことに対して「GPSを付けたらどうかということで始まった」とおっしゃっています。 位置情報だけでなく、燃料の残量などもわかるからということで、Komtraxを開発したそうです。当初はオプションで、標準装備ではありませんでした。 顧客からは、「コマツの機械は盗まれても追跡できるから心配ない」と評判になったそうです。盗難が減って、盗難保険も安くなるなど、効果とメリットがはっきりしてきた。つまり、結果が出たわけですね。 盗難対応として、遠隔操作でエンジンを停止するなどの機能も開発したそうです。その後、ゼネコン不況での赤字とリストラの時期を経て、2001年に標準装備化されています。 要するに、「建機の盗難」「建機によるATM強盗」という「顧客課題」「社会課題」があったので、お客さんのために開発したものだったけれど、「自分たちのため」にもなるだろう、ということで標準装備に踏み切ったわけです。 「自分たちのため」というのは、盗難防止以外にも、いろいろな顧客課題を解決できる、それで新たなビジネスチャンスが生まれそうだ、と踏んだということです。成功体験の話ですね。実際、稼働状況から燃費向上のアドバイスをするなど、新しいサービスが生まれています。
楠浦 崇央