【小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない】津波という「想定外」から身を守るためにできること
宮崎県沖の日向灘を震源とするマグニチュード7・1の地震が8日午後4時43分に発生し、宮崎県南部平野部で震度6弱の揺れを観測。気象庁は初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。今後1週間程度は巨大地震発生に注意し、万一に備えることが求められる。 地震による津波が発生した時、私たちは自らを守ることはできるのか――。答えは「できる」だ。東日本大震災発生時、岩手県釜石市の小中学生のほぼ全員が避難できた「釜石の奇跡」の裏側を追った2011年4月22日掲載の「小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない」を再掲する。 岩手県釜石市では、市内の小中学生、ほぼ全員が津波の難を逃れた。多くの人たちは、これを「奇跡」と呼ぶ。しかし、そうではない。教育で子どもたちが身につけた対応力が「想定外」を乗り越えさせた。 【画像】【小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない】津波という「想定外」から身を守るためにできること
死者の声に耳を傾ける
最初にある少女のことを書かせていただきたい。私は、岩手県釜石市の小中学校で先生方とともに防災教育に携わって8年になる。「どんな津波が襲ってきてもできることがある。それは逃げることだ」と教えてきた。特に中学生には「君たちは守られる側ではなく、守る側だ。自分より弱い立場にある小学生や高齢者を連れて逃げるんだ」と話していた。今回の震災では、多くの中学生が教えを実践してくれた。 ある少女とは、私が教えた中学生の一人だ。彼女は、自宅で地震に遭遇した。地震の第一波をやり過ごした後、急いで自宅の裏に住む高齢者の家に向かった。そのおばあさんを連れて逃げることは、自分の役割だと考えてくれたからだ。逃げる準備をするおばあさんを待っているとき、地震の第二波が襲ってきた。彼女は、箪笥の下敷きになり命を落とした。 病気で学校を休んでいた子やこの少女を含めて、釜石市では残念ながら5人の小中学生が亡くなった。それでも、命を落とした少女を含めて、一人ひとりが「逃げる」ことを実践してくれたおかげで、小学生1927人、中学生999人の命が助かり、生存率は99.8%だった。もちろん、死者が出た時点で、私たちがやってきた防災教育は成功したと胸を張ることはできない。だから、私は彼女ら死者の声に耳を傾け続ける。防災学は、人の命を救う実学だからだ。彼女らの声を聞くことで、別の命を救うことができる。