引退決断の佐藤寿人が携帯を手に1時間泣いた日
2人がホットラインを開通させた35試合の内訳は29勝4分け2敗。約94%という驚異的な勝率を弾き出しているなかで、いまも脳裏に焼きついて離れない2人の共同作業として、佐藤はホームにコンサドーレ札幌を迎えた、2012年11月7日の第31節に刻んだゴールをあげる。 「本当にたくさんの思い出深いゴールがありますけど、やはり初優勝した2012年はプレッシャーがすごくて、普段の生活でも人に会うのを避けるような感じになっていて」 佐藤が振り返ったように、3試合連続で白星から遠ざかっていた広島はベガルタ仙台に勝ち点55で並ばれ、得失点差でわずかに上回る首位で札幌戦を迎えた。初めて経験するJ1の優勝争いがプレッシャーと化し、チームを蝕んでいたなかで、キャプテンの佐藤は試合前に青山に誓った。 「今日はトシのアシストからオレが決めるから」 1点をリードして迎えた前半31分に、佐藤の予告が現実のものになる。センターサークル内でボールを受けた青山が、間髪入れずにペナルティーエリア内の左サイドへ縦パスを一閃。右サイドから斜めに走り込んできた佐藤が、利き足の左足によるワンタッチでゴールを突き刺した。 「素晴らしいパスからイメージした通りのゴールが生まれた。ゴールの直後に青山選手へ『言っただろう』と声をかけながら、両手でハイタッチを交わしたことをいまでも覚えています。あのゴールに代表されるように青山選手は自分と同じ絵を描いて、本当にたくさんトライしてくれたので」 佐藤の追加点もあり3試合ぶりに勝利した広島は、ホームでセレッソ大阪に4-1で快勝した11月24日の第33節で悲願のリーグ戦初優勝を決める。ピッチの真ん中に突っ伏し、号泣した佐藤は22ゴールで初の得点王を獲得するとともに、リーグMVPにも輝いている。 身長170cm体重65kgのサイズはFWとして決して大きくはない。それでも対峙する相手DF勢との駆け引きを制し、瞬間的なスピードを生かしながら「ワンタッチゴーラー」に登り詰めるためには、味方とのあうんのコンビネーションが何よりも必要だった。 「自分一人で得点を奪うことはなかなか難しい。なので、いかに味方とイメージを共有してチャンスを作り出してゴールを奪っていくのか、という部分は自分にとってのひとつの武器でもあり、普段のトレーニングからイメージの共有に繋がることを生命線としてきました」 会見でこう振り返った佐藤は、自分の動きや特徴を知ってもらうために、練習から必要とあれば忌憚なくパサーたちに注文してきた。そして、数多くいる選手のなかで最も言葉を交わした選手である青山との間には、他人が踏み込めないような神聖な時間が凝縮されている。