主役交代で加速する「AI株相場2.0」、エヌビディアの“次”に来る企業は?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
3. 「AI帝国」グーグルの逆襲
■ブロードコムの台頭やソフトウェアによるAIのビジネス実装・収益化とならび注目したいのが、生成AIの開発競争で一度は後れを取ったグーグルの逆襲です。昨年来の生成AIブームの火付け役となったのは、オープンAIが開発した大規模言語モデルのチャットGPTですが、同社の開発チームの主要メンバーはグーグル出身者が多くを占めていることをご存じでしょうか。 ■かつて、グーグルはAI開発のトップランナーとして、業界では知られた存在でした。しかし、検索エンジンを核とした既存ビジネスへの悪影響への懸念もあって、大規模言語モデルの開発競争でオープンAI・マイクロソフト連合の後塵を拝することとなりました。さらに、チャットGPTに対抗して投入した大規模言語モデル「バード」が、お披露目のデモンストレーションで誤解答を繰り返したことなどから、すっかりAI開発で出遅れたイメージが定着してしまいました。 ■そんなグーグルが、本気の反撃を見せています。リストラによるコストカットと同時に研究開発をAIに傾斜させるとともに、大規模言語モデルの「バード」のサービス名を「ジェミニ」に刷新し、検索エンジンやアンドロイドのアプリとの連動もスタートさせました。さらに、速度が速く解答の正確性も改善された「ジェミニ2.0フラッシュ」を開発し、大規模言語モデルの覇権をチャットGPTから取り返すべく反転攻勢に出ています。 〈帝国の逆襲、切札は量子コンピューター〉 ■こうした「AI帝国グーグルの逆襲」の切札として注目されるのが、同社の量子コンピューターでの技術的なブレークスルーです。グーグルは量子コンピューター向け半導体「Willow(ウィロー)」を発表しましたが、現在最速のスーパーコンピューターで「10の25乗年」かかる計算を、量子コンピューターを使うことでわずか5分で処理できるとしています。 ■従来のコンピューターには難しい複雑な課題を高速で解くことができる量子コンピューターは、AIの機械学習の高度化に利用できるとされています。「量子機械学習(Quantum Machine Learning)」といわれる技術です。この量子機械学習により、AIは取り扱うデータ量、学習回数、処理速度をいずれも飛躍的に向上させ、従来のAIでは難しかった高度な問題が解決できるようになるとされています。 ■生成AIブームのスタートで一度はつまずいたかに見えたグーグルの反転攻勢が続いていますが、同社の量子コンピューターを活用したAIの高度化がさらに進むようなら、生成AIの開発競争の主役として注目を集めるようになっても不思議ではないでしょう。 〈まとめに〉 過去1年半余りのAI株相場は、半導体メーカーであるエヌビディアを中心に展開してきました。しかし、仮に同社の利益率が上限に近づき、売上の成長も緩やかになってくると、これまでのような爆発的な株価上昇を期待することは難しくなってくるように思われます。 半導体などのハードがけん引してきたのが「AI相場1.0」であったとすれば、わたしたちは新たな主役が活躍する「AI相場2.0」の入り口にいるのではないでしょうか。中でも注目したいのは、ブロードコムのような新しいAI半導体会社、セールスフォースやパランティアのようにAIをビジネスに実装・収益化するソフトウェア会社、そして、AI覇権の奪還を目指すグーグルの逆襲、といったところでしょうか。群雄割拠の様相を呈しつつ加速するAI相場2.0から、目が離せない状況が続きそうです。 ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『主役交代で加速する「AI株相場2.0」、エヌビディアの“次”に来る企業は?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。 白木 久史 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフグローバルストラテジスト
白木 久史,三井住友DSアセットマネジメント株式会社
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