主役交代で加速する「AI株相場2.0」、エヌビディアの“次”に来る企業は?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
2.主役交代で加速するAI相場2.0
〈AI半導体株の新星、ブロードコムの台頭〉 ■AI株相場をけん引してきたエヌビディア株が減速を見せる一方、新たなスターとして注目を集めているのが通信用半導体大手のブロードコムです。同社の2024年8-10月期の決算は、AIデータセンター向けのネットワーク半導体やカスタム半導体(ASIC)の販売好調で、前年同期比51%の大幅な増収となりました。中でも市場を驚かせているのは強気の業績予想で、AI向け半導体の売上が今後3年間で4倍以上に拡大すると予想しています。 ■こうしたブロードコムの強気予想の背景にあるのが、大手ハイテク企業との共同開発の動きです。AIの「学習」に使われるエヌビディアの半導体と異なり、ブロードコムの半導体は主に「推論」のプロセスに使われるとされていますが、現在同社はグーグル、メタ、アップル、中国のバイトダンスなどと、AI用半導体の共同開発を行っていると報じられています。 ■ちなみに、ブロードコムのAI向け半導体の売上は2024年10月期で約120億ドルで、売上全体の約23.2%にとどまり、それ以外はメインフレーム、携帯電話、データストレージ向けなどの半導体になります。今後はAI向け半導体の急成長により、同社の利益の出方が大きく変化してくる可能性が高まっています。先にも記した通り、株価は将来の期待を織り込みながら動くので、こうした「変化」や「伸びしろ」に敏感に反応する傾向があります。このため、足元のエヌビディアとブロードコムの株価推移を見ると、展開に大きな差が見られる結果となっています。 〈ソフトウェアの進化で進むAIのビジネス実装〉 ■これまでのAI株相場はエヌビディアの半導体に代表されるような「ハードウェア」が市場の関心を集めてきました。一方、足元で見られる業界の特徴的な変化は、AIで高度化されたソフトウェアの提供によるAIのビジネスへの実装と収益化の動きが強まっていることです。 ■例えば、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の業務アプリで世界最大手のセールスフォースは、顧客サポートや営業開拓などのタスクをAIで完了できる「Agentforce(エージェントフォース)」のサービス提供を2024年10月にスタートさせました。同社はこれまでも、文章作成などAIを活用した機能をCRMに組み込んで顧客に提供してきましたが、生成AIの活用によりサービス内容を一層高度化することで、AIの収益化でも成功をおさめつつあります。 ■ビッグデータの解析、管理、統合サービスを提供するパランティア・テクノロジーズも、AIのビジネスへの実装を通じて業績を大きく伸ばしているソフトウェア会社の一つです。パランティアは「防衛テック企業」として有名ですが、安全保障・国家情報機関のデータ解析で培った予測モデルのノウハウを他の民間企業向けにも展開し、金融、医療、製造業など様々なビジネスのリスク管理、生産性向上のソリューションを提供しています。 ■同社の2024年7-9月期決算は30.1%増収、営業利益は2.83倍の大幅増益となりましたが、その業績は黒字転換・利益率拡大の局面にあります。このため、非連続的な業績拡大への期待感を背景に株価は大きく上昇しており、今年12月にはナスダック100に採用されることとなりました。 ■今後、ソフトウェア・ITサービスの形でAIのビジネス実装と収益化が進むことで、AI株相場の主役は「ハード」から「ソフトウェア」に移行していく可能性が高まっています。こうした予兆を察知してか、株式市場では半導体株よりもソフトウェア・ITサービス株の好調が目立つようになってきました(図表3)。今後、こうした「AIビジネスの収益化」がより明示的になるようならば、AI株相場の推進力はさらに高まる可能性がありそうです。
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