インドの女性監督が目指した「川端康成の文学」 是枝裕和監督と対談
第37回東京国際映画祭の「交流ラウンジ」で29日、インドの女性映画監督、パヤル・カパーリヤーと是枝裕和監督によるトークセッションが行われた。インドの社会や映画について、また女性を描くことについて、語り合った。 【写真】第37回東京国際映画祭レッドカーペット 「外道の歌」の(左から)白石晃士監督、亀梨和也、窪塚洋介、南沙良、久保田哲史プロデューサー カパーリヤー監督は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で「何も知らない夜」が大賞を受賞。今年のカンヌ国際映画祭では「All We Imagine as Light」がグランプリを受賞している。今回のカンヌ映画祭に審査員として参加していた是枝監督は「審査方法などのディティールに関して、死ぬまで話してはならないと誓約書にサインしたので何も言えませんが、今回交流ラウンジで真っ先にお呼びしたいと思ったのが彼女だった、ということでお察しいただければと思います」と前置きをした。
インディペンデント映画は海外との合作で
カパーリヤー監督は、実験的な短編映画を見て、「自分でも自由に映画製作ができそうだ」と国立映画学校に進んだという。「インドには、コルカタやケララなど州立の映画学校が多くありますが、定員は少なくもっと映画学校が増えてほしいです」とインドの現状を語った。 是枝監督がインドのインディペンデント映画製作について聞くと、「インドには支援するシステムがなく、インディペンデント作品を撮り続けることは困難だと思います。選択肢がなく、卒業生のほとんどがボリウッドなどメインストリーム作品を製作します」と説明。自身の映画作りは「資金がないままデモという形で撮影を先に進め、それからフランスの製作者に支援してもらった」という。
シンプルな文章に深い奥行き
「All We Imagine as Light」は、インド南部出身の40代と20代半ばの2人の女性が、ムンバイで偶然ルームメートになり、それぞれかなわない恋をしながら家族を見つけようとする物語。「インドでは、実際の家族が足かせになってしまうことがあり、新たに家族を作るということがある」と背景を解説した。是枝監督は「語り口が声高でないにもかかわらず、語りかける力が強く、すべての登場人物にシンパシーを感じた」と感想を述べ、「録音の仕方も含めて、声をどのように意識したか」と質問した。カパーリヤー監督は、「音は映画において大きな影響を持ちます。静かに話していても劇場では近くで聞こえ、そのことで親密さを表すことができます。物理的には遠くからのショットを撮りたいが、声は優しくささやくようにしたい。そうやって選べることが映画の魅力だと思います」と答えていた。 是枝監督は「何も知らない夜」の、「支配者が残す記録だけが歴史と呼ばれる」というセリフが印象的だったという。カパーリヤー監督は「今、インド国内では、歴史や過去について多くの意見が飛び交っています。でも、私は歴史を利用したくない。大がかりなものではなく、炊飯器のような日常にあるものに込められたメッセージを伝えたい。学生の時、川端康成の『掌の小説』に衝撃を受けました。日常のことを描いているのに、シンプルな短い文章の奥にたくさんの層がある。その構造を再現したかった」と話していた。