考察『光る君へ』31話 一条帝(塩野瑛久)の心を射貫くのだ! まひろ(吉高由里子)の頭上から物語が美しく降り注ぐ歴史的瞬間。しかし道長(柄本佑)は困惑気味
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。31話「月の下で」において、我々はついに『源氏物語』誕生という歴史的瞬間を目撃することに! ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載33回(特別編2回を含む)です。
隠しきれない道長の思い
「心に浮かんでいる人に会いに行け」という安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の助言に従い、まひろ(吉高由里子)に会いに来た道長(柄本佑)。殿の邪魔をしないようにそっと離れる百舌彦(本多力)と、おかた様が心配で離れたくない乙丸(矢部太郎)、ふたりの従者の違いがよい。 左大臣・道長のお忍びコーディネート!狩衣の袖括の緒と、烏帽子から透けて見える元結が御空色(みそらいろ/明るく澄んだ薄い青色)の同系色。目立たないようにした地味な狩衣でも爽やかに、きりりと引き締める色だ。身をやつしての装いなのに、心底惚れた女に会いにくるため気合を入れてお洒落をしたのか、道長……。 そして、道長からまひろへ新しい物語執筆がオーダーされた。燃えてしまった『かささぎ語り』の代わりに、中宮様(彰子/見上愛)への献上品として……「帝のお渡りもお召しもなく、寂しく暮らしておられる中宮様をお慰め」する作品を。 『紫式部日記』では、夫・宣孝(ドラマでは佐々木蔵之介)を亡くした後、悲しみと将来への不安の中で、物語を介して生きる喜びを見出していったことが綴られる。物語を読んで友人たちと感想を述べあい、彼女自身も筆を取って創作をしたのだと。 『源氏物語』はこの頃、そうした生活の中で生まれたと考えられる。左大臣・道長が訪ねてきての直接の依頼は『光る君へ』オリジナルだが「お前には才がある」という彼のまひろへの信頼はこれまでじっくり描かれてきたので、その虚構を楽しみたい。 去り際に振り返って、まひろを見る道長の目は「今でもお前が好きだ」と言っている。それを受け取り、やや動揺するまひろ……仕事の話で来たのに、一瞬でもそういう視線を投げかけられるのは困るよねえ。