考察『光る君へ』31話 一条帝(塩野瑛久)の心を射貫くのだ! まひろ(吉高由里子)の頭上から物語が美しく降り注ぐ歴史的瞬間。しかし道長(柄本佑)は困惑気味
すねる公任、モテる実資
寛弘元年(1004年)の秋に、斉信(金田哲)が公任(町田啓太)を追い抜いて従二位に昇進した。このあと、公任は翌年まで参内をやめてしまう。いつまですねているのだと出仕を促すために訪れる斉信を見て、5話のこのやり取りを思い出す。 斉信「俺たちが手を組んだほうがよいと言っているのだ」 公任「それを言うなら俺より官位が上になってから言ってくれ」 公任、若き日の軽口が恥ずかしくなる展開。永観2年(984年)頃のこと。あれから20年か……みんな大人になったねえ。斉信は彰子が立后した年に、中宮関係の事務方である中宮大夫になり、そこを経ての出世である。 「俺もたまたま中宮大夫であったゆえ位を上げてもらっただけだ」 「(道長は)娘のことをお前に託したということだ」 この台詞があるが、公任は皇太后である姉の遵子(のぶこ/中村静香)の事務方・皇太后大夫を勤めており、この辺りは仕方がないというか……。 「政で一番になれぬなら、こちらで一番になろうと思うてな」と和歌・漢詩を学び直す公任は、レビュー第3回でも触れたが 小倉百人一首 滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなを聞こえけれ (滝は枯れて流れ落ちる音は随分前から聞こえないけれど、その名声は流れてきて今なお聞こえているよ) この歌が今に伝わる。当時も勅撰和歌集に数多く彼の歌が採られた、平安時代を代表する歌人の一人である。ドラマ31話の時点で38歳。出世できず僻むのではなく、この年齢になってから学び直すのだというこの作品の公任は、貴族としての誇りを感じさせて清々しい。 あと、自宅なのでリラックスして直衣の首上を留める緒をほどいている姿も美しい。 そして意外にすみにおけない実資(秋山竜次)の新しい恋人……実資は、彼の丸いお腹を愛でた妻・婉子女王(つやこじょおう/真凛)を長徳4年(998年)に亡くしている。 日記! 日記! の桐子(中島亜梨沙)といい、妻と早くに死に別れる運命のようで気の毒なことだ。しかし婉子と同じく、今度の彼女も積極的である。すみにおけないというか、モテてますよね実資。「今日は忙しいゆえ」と御簾の内に急ぐ姿、昼下がりの情事は手慣れているようだし。