考察『光る君へ』31話 一条帝(塩野瑛久)の心を射貫くのだ! まひろ(吉高由里子)の頭上から物語が美しく降り注ぐ歴史的瞬間。しかし道長(柄本佑)は困惑気味
枕草子ってどう思う?
まひろがのちの和泉式部、あかね(泉里香)に『枕草子』の評価を訊ねる。 「なまめかしさがない」 「『枕草子』は気が利いてはいるけれど、人肌のぬくもりがない」 黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき (黒髪が乱れるのも構わずにこうして横たわっていると、この髪をかきあげてくれた人が恋しく思い出される) 自分の黒髪を見て熱い情事の反芻をする女……どえらく官能的な瞬間を切り取った歌である。なまめかしいどころの騒ぎではない。私はこういう人間なんですというのを含み笑いとともに告げる天才歌人。 これまで、まひろは数々の平安女性文学者と関わってきた。 「心の中は己だけのもの」という赤染衛門(凰稀かなめ)。 「書くことで己の悲しみを救った」と語った藤原道綱母、寧子(財前直見)。 定子(高畑充希)のために書き、そして光り輝く定子の姿をこの世に留めようと書き続ける清少納言(ファーストサマーウイカ)。 そして生身の体、肌の下にある血の熱と心を謳い上げる和泉式部。 彼女たちから影響と刺激を受けて、まひろは自分だけが書ける作品を模索することになる。 あかねから借りた『枕草子』を読み込み、そこにないものを書こうとする──。
どっちの妻ともうまくいかない
がらんとした藤壺、30話で一条帝(塩野瑛久)と敦康親王(池田旭陽)が遊んでいた瓢箪へのお絵描きを、独り自分でやってみる彰子に泣きそうになった。次に敦康親王が遊びたくなったときに、お相手できるように……楽しく過ごせるように。彼女は目の前のことに無関心な少女ではないのだ。 この孤独な姿、観ているだけのこちらでさえ胸が痛むのだから、父・道長そして母・倫子(黒木華)の心痛はいかばかりか……。 その道長と倫子について、中宮様からのお訊ね。 「父上と母上はどうかなさったのでございますか」 中宮様の入内後の孤独が原因だなんて、口が裂けても言えない!そしてやはり、彰子は目の前のことに無関心ではない……むしろ敏感なほうではないだろうか。 娘・彰子の心配をよそに、土御門殿での夫婦の溝は深まるばかり。 そして、高松殿は高松殿で、明子(瀧内公美)は息子たちの元服後の官位確約を道長から得ようとする。道長が今の立場を固めるのに、倫子の家・土御門殿の財力が大きかったことはレビュー30回でも述べた。 それを冷静に伝えても明子は納得できない。そもそも明子に財がないのは道長の父・兼家(段田安則)とその兄弟のせいなんですもの。そりゃムッとした態度にもなるわ。 それにしても、私の息子・道綱(上地雄輔)をお忘れなくと事あるごとに口にしていた寧子と兼家の場面と比べて、なんと後味の悪い場面だろうか。いくら明子の事情が複雑だとはいえ、愛憎激しく求めあった男女と政略結婚夫婦の差なのか。