まさか、宇宙の生命体の痕跡ではあるまい…隕石の中にあるアミノ酸が「できるまで」を再現した「衝撃の実験」
分子雲や小惑星で有機物はできるのか
分子雲の内部には分子や塵が比較的、高密度に存在するため、星からの光を遮って暗く見えます。電波望遠鏡で観測すると、およそ300種類の分子(星間分子とよばれます)が同定されました。その中では一酸化炭素が最も多く観測されますが、エタノールや酢酸なども含まれています。 星の光が入らないため内部は超低温(マイナス260℃ほど)で、塵の表面に水や一酸化炭素などの分子が凍りついて、アイスマントルともよばれる氷の層をつくっていると考えられます(図「分子雲の星間塵での有機物生成」)。これに宇宙線(高速の水素イオンなど)や、宇宙線が物質に当たったときに生じる紫外線が作用すると、氷の層で反応が起きて有機物ができることが期待できます。 私たちは実験室で、分子雲を模して極低温に冷却した金属板に、一酸化炭素・アンモニア・水などを吹きつけ、これに加速器からの陽子線(加速した水素イオン)を照射しました。そのあと、金属板上に生成した物質を取り出して加水分解すると、アミノ酸が検出されました。欧米のグループは同様の実験を、紫外線を使って試みて、アミノ酸が生じることを確認しています。 また、小惑星の内部には、氷が取り込まれています。これが放射性元素(アルミニウム26など)の放射壊変で生じる熱によって融けて、液体の水ができます。この水にはアンモニアやホルムアルデヒドなどが溶けています。この液体中で、水に溶けた分子どうしが反応してさまざまな有機物ができたのではと考えられるようになりました。 横浜国立大学(現在は東京工業大学)の癸生川陽子(けぶかわ・ようこ)らは、ホルムアルデヒドやアンモニアを含む水溶液を加熱、またはガンマ線を照射したところ、アミノ酸が生成することを見いだしました。はやぶさ2で探査したリュウグウの有機物の分析でも、小惑星内部の液体の水が有機物の生成に関与しているらしいことがわかりました。 これらから、分子雲とともに小惑星もまた、隕石中のアミノ酸の生成の場として有力と考えられます。 生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか 生命はどこから生命なのか? 非生命と何が違うのか? 生命科学究極のテーマに、アストロバイオロジーの先駆者が迫る!
小林 憲正