まさか、宇宙の生命体の痕跡ではあるまい…隕石の中にあるアミノ酸が「できるまで」を再現した「衝撃の実験」
イソバリンの特殊性
イソバリンのどこが特殊かというと、タンパク質アミノ酸ならば必ず持っている‒水素(COOHがついている炭素に結合した水素)を持っていないことです(図「イソバリンとバリン」)。このようなアミノ酸は地球の自然界にはほとんどありません。しかも隕石に含まれるタンパク質アミノ酸(バリンなど)には左手型過剰が見られないことから、地球上でアミノ酸が混入した可能性は除外できるのです。 ここで、化学進化を考えるうえで重要なのは、アミノ酸には時間がたつと左手型が右手型に変わるという性質があることです。これをラセミ化といいます。イソバリンなどの‒水素のないアミノ酸は、タンパク質アミノ酸と比べてラセミ化の進み方が遅いため、数十億年たっても左手型過剰が残っているのではないかと考えられます。 そして40億年前の隕石中では、タンパク質アミノ酸にも左手型過剰があったかもしれないのです。 どうして地球ではアミノ酸の左手型過剰が起きるのか、それは一部の非タンパク質アミノ酸にかぎられるのか、などについては、隕石中のアミノ酸の起源が関係してくると思われますので、次に、このことについて考えましょう。
隕石中のアミノ酸はどこでできたのか
隕石や彗星中に生物がいると考える研究者もいないわけではありません。しかし多くの研究者は、そこにある有機物はやはり、非生物起源と考えています。では、それらはどこで、どのようにしてできたのでしょうか。 (A)まず、分子雲とは、「暗黒星雲」ともよばれる夜空で星が見えない領域です。その中で密度の高いところでは、物質が重力で収縮して太陽ができます。太陽に取り込まれなかった物質は周囲を取り囲み、太陽系のもとになる原始太陽系円盤ができます。 (B)円盤上で、塵がくっつきあって直径 10km程度の微惑星がたくさんでき、それらがさらに衝突合体してより大きな惑星ができていきます。 (C)このとき、惑星に成長できなかった微惑星や、惑星が壊れたものが、小惑星になったと考えられます。 (D)また、太陽から遠いところ(エッジワース・カイパーベルトなど)では、水などの氷が残り、彗星のもとになる天体となります。 (E)小惑星や彗星の一部が隕石になり、 (F)さらにそれらから微小な塵が生じ、宇宙塵(惑星間塵)となって、 (G)地球に降りそそぎます。 こうした物質の変遷の中では、さまざまな場所で有機物ができる可能性が考えられますが、とりわけ注目すべきなのは、(A)の分子雲や、(C)の小惑星の内部です。