『虎に翼』“大吉派”と“華丸派”どちらがより楽しめる? 史実からの脚色に込められた意図
NHK総合で放送されている朝の生活情報番組『あさイチ』では、番組開始時に、MC陣が直前まで放送されていた連続テレビ小説(朝ドラ)の感想を述べる「朝ドラ受け」を行うことがある。そこで以前、MCの1人である博多華丸が「ドラマの最中に、その先のストーリーをちょろっと言うのやめてください」と相方の大吉にクレームを入れていたことがあった。それに対し大吉は、積極的に“ネタバレ”を探しているわけではなく、「史実はこうだったらしいけどね、っていうネットニュースは目を通すようにしてるんですよ」と反論していた。 【写真】史実では“息子”だが、娘として描かれている優未(竹澤咲子) 現在放送中の朝ドラ『虎に翼』のヒロイン・寅子(伊藤沙莉)のモデルは、日本における初の女性弁護士であり、初の女性判事であり、初の女性裁判所長を務めた三淵嘉子。だから三淵が歩んできた人生(=史実)を知れば、自ずと寅子が歩んでいく人生もわかってくる。だが三淵のエピソードがドラマで同じように描かれるとは限らない。 たとえば、『虎に翼』では寅子の父・直言(岡部たかし)が巻き込まれた「共亜事件」は、実際にあった「帝人事件」がもとになっていると思われるが、三淵の父はこの事件とは無関係。ただし、三淵の父は事件の関係先とされ、起訴された人も出た台湾銀行に勤めていた。さらに、三淵は2度結婚しているが前夫との間には、後に寄生虫学者となった息子がいる。寅子と優三(仲野太賀)との間に生まれたのは娘の優未(竹澤咲子)なので、その点も異なる。このように、当たり前ではあるが、ドラマでは史実通りというわけではない。 では、史実とは違う大きな脚色には、どんな意図があるのだろうか。そのひとつは、史実をよりドラマチックにするためだろう。 2023年度前期『らんまん』の主人公・万太郎(神木隆之介)のモデルである牧野富太郎は、愛する妻の名をとって新種の笹に「スエコザサ」と名付けたことで知られている。ドラマの最終回間近にはそのエピソードに加えて、万太郎と妻の寿恵子(浜辺美波)が『槙野日本植物図鑑』を完成させ、一緒に眺めている場面が描かれた。しかし、実際に牧野が研究の集大成である『牧野日本植物図鑑』を完成させたのは、妻の死から12年後。史実とは違うが、二人三脚で駆け抜けてきた2人の夢が達成された瞬間を描いてドラマの最終回としたことは、万太郎の人生には、寿恵子が必要不可欠であることをより強調している。