『虎に翼』“大吉派”と“華丸派”どちらがより楽しめる? 史実からの脚色に込められた意図
史実よりも“マイルド”になっていた『ブギウギ』の出産シーン
一方で、史実よりもマイルドな演出になっていたのが、『ブギウギ』(2023年度後期)でのスズ子(趣里)の出産シーンではないだろうか。ドラマでは、スズ子が娘の愛子を産む瞬間と、彼女の最愛の婚約者・愛助(水上恒司)が結核で亡くなる瞬間がほぼ同時に描かれ、スズ子が愛助の死を知ったのは出産後だった。 しかし実際は、スズ子のモデルである笠置シヅ子が娘を産む数日前に、すでに婚約者である吉本穎右の死は知らされており、それを知ってからの数日は、ショックのあまり、自分が穎右の吹くラッパで歌って踊る夢を見るなど夢現の状態だったという。そして、生前に穎右が身に着けていたもので唯一、シヅ子の手元に残った穎右の浴衣と丹前を大事にし、陣痛に襲われたときは浴衣を抱きしめて耐えたとされる。シヅ子の穎右への愛がひしひしと伝わってくる実際のエピソードは、そのままドラマになりそうである。でも、もし朝ドラで史実通りにスズ子の出産の瞬間が描かれていたとしたら、一日中悲しさと切なさを抱くことになる視聴者も出てきそうだ。脚色というのは、朝に観られるという特色のある“朝ドラらしさ”を保つ上でも大事なものなのかも知れない。 話は冒頭に戻るが、何も調べずにドラマを楽しむ“華丸派”は、『虎に翼』ならではの寅子の人生と彼女や周りの人の成長、変化を楽しむことができるだろう。逆に史実を知ってドラマを楽しむ“大吉派”は、ドラマと史実の“違い”からドラマで描きたいこと、伝えたいことに注目できるのかも知れない。さて、あなたはどちら派だろうか。 参照 清永聡『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社) 砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子 ー心ズキズキワクワクああしんどー』(新潮文庫)
久保田ひかる