映画『モアナ2』興収900億円超えヒットの秘密。キーワードは配信・お仕事もの・モアナの上腕二頭筋?
ポリネシア文化へのリスペクト
本作の舞台は、2000年ほど前の太平洋諸島、中でもポリネシア地方とされる。そのため、作品に関わる主要キャストやスタッフにもポリネシア系の人物が名を連ねる。最も有名なのは間違いなく、マウイ役の声優「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンであろうが、他にも監督の一人であるデイブ・デリック・ジュニア、監督/脚本のデイナ・ルドゥー・ミラーもサモア系である。 もちろん、ルーツがポリネシア地方ではない人物の方が多いようだが、制作に際しては「オセアニック・カルチュラル・トラスト」という団体と緊密な協力関係にあった。この団体は太平洋諸島出身の人類学者や言語学者、歴史家、振付師などからなり、監督の一人であるジェイソン・ハンドは「すべての段階において彼らは私たちをサポートしてくれ、映画のあり方についてアイデアをくれました。それが本当に重要でした」と語っている。 以前、別記事でも解説したが、ディズニーは「オーセンティシティ(信頼がおけること、誠実さ)」という価値観を重視している。ディズニープラスで配信され、エミー賞を受賞した時代劇『SHOGUN 将軍』で「トンデモ日本」が描かれなかったように、本作でも「想像上のポリネシア」ではなく、太平洋諸島の人々が見ても違和感がないポリネシア地方をちゃんと描こうという姿勢が感じられた。 その努力の甲斐あってか、モチーフとなっている伝承や、歌や踊り、衣装、そして島の建築物や舟までをも通して、まるで太平洋諸島を旅しているかのような感覚を味わえる。疲れた大人にとっては癒しの時間になるだろう。
モアナはお仕事もの?
最後に、モアナはビジネスパーソンが見ても楽しめる映画だと断言したい。モアナの作品イメージ的には、劇場に子どもが多いと思うだろう。だが実際、私が行った劇場では大人が9割がたという印象だった。 ではなぜ、大人たちはこぞってモアナを観に行くのか? 私は、モアナのモチベーションが恋愛ではなく、自らの好奇心と共同体の存続にあるからだと思っている。これは企業人で言うところの、会社の未来のために海外で新規事業を起こすような感覚に近い。そのために、絶対的な力を持つ組織外のキーパーソン・半神半人のマウイを説得して協力関係を築いたり、大工や歴史家といったメンバーと急ごしらえのチームを作り、方向性を揃えてプロジェクトを進行したりすることもある。 「モアナ」はファンタジー要素もありつつ、「お仕事もの」としての側面もある作品であり、そこが大人たちの心まで掴んでいる要因なのだと思う。
野田 翔