「笑い話にできない話はするな」 西田敏行さんが遺した名言を盟友・武田鉄矢が明かす 「彼の演技には狂気が潜んでいた」
“シンデレラ”というあだ名を付けられた理由
思い起こしても、西田さんとはほんとによく飲みに行きました。西やんのお酒はとにかく楽しくてね。歌手の松崎しげるさんなんかが来ると、松崎さん、ギター持ってくるんですけど、ほとんどショーパブになっちゃうんですよ。他のお客さんを巻き込んだりして。 でも私はよく怒られていました。体質もあるんですが、ある程度酔いが回っちゃうと眠たくなるタイプなんです。夜12時手前に帰っちゃうことが多かったので、西やんから“シンデレラ”ってあだ名付けられて、「鉄やんは、魔法が解けるんで帰っちゃうんだ」って。あの人はそこから踏ん張る人で、長いですね、2時3時まで。
二人そろって「目指すべき役者」に挙げた大物俳優
西田さんとは話すほどに、互いに似た嗜好(しこう)を持っていることに気付かされました。“人間の柄”って言うんでしょうかね。自分とよく似た人間観・世界観を持っていたように思います。人間をどう考えるとか、異性をどう考えるとか……。 なかでも大喜びしたのは、二人で、それぞれ目指すべき役者の名前を口にしたとき。答えがピッタリ合ったんです。 渥美清さんだったんですよ。俺たちにとっては遠い背中だけど、あの人を目指そうと誓い合った。他に誰もその道を行く奴がいない。カッコいい路線を目指す人はいっぱいいるけど、こちらはガラガラに道が空いてるから、これ絶対間違いないよってね。 渥美さんの何がすごいかって、男が持っている悲哀や、生きていくことそのものの悲哀を演技で表現するんだけど、お客さんがそれを見て笑うところです。役者がたとえ泣きながら演じても、お客さんを楽しませる。 渥美さんはなぜそれができるのかというと、人間の細部、人間の肌触りを表現できているからなんです。正義を描くにしろ、小悪党を演じるにしろ。 西田さんはもともと青年座におられて、その後中心的な俳優の一人として坂道を上っていくわけですが、まだそうなるだいぶ手前、貧しい貧しい役者として、舞台に這いつくばって芝居をしている当時にも、実は渥美さんに会っているそうなんです。