なぜ朝倉未来は斎藤裕に敗れ初代RIZINフェザー級王者になれなかったのか…誤算とメイウェザー戦の行方
これで朝倉の闘争本能に火がつく。左ストレートが炸裂。斎藤はロープにふっ飛ぶが、ダウンはこらえた。斎藤の持つ強い意志の力だ。 朝倉は逆転KOのドアの取っ手に手をかけながらもラッシュをかけなかった。 「意外にテイクダウン力があって危ない感じがあった」 追撃のミドルキックはキャッチされ、逆に、捨て身の斎藤が、やるかやられるかの勝負に出た。思い切り右を叩き込んできたのだ。朝倉が警戒していた右のパンチである。 だが、朝倉も負けていなかった。RIZINの歴史に残る、やるか、やられるかの壮絶な殴り合い。朝倉が、そこに左のカウンターを合わせ、また斎藤は、一瞬、尻餅をつきかけたが、すぐに立ち上がった。絶対にダウンはしない。もはや執念である。 朝倉は、サイドから回りこんで斎藤の左足をからめ取って浮かせて、軸足を足で払う。この試合で初めてテイクダウンを取りにきた。 「ポイントを取るために。俺もテイクダウンは強い」 だが、斎藤は、片方の足一本で立ち続け、足を払われても、すぐさま体勢を維持して立ち上がった。これが修斗世界フェザー級王者の持つテクニックなのだろう。朝倉は、右手で足を抱えながら左のパンチを浴びせロープへ押し込んだが、その状態で試合終了のゴングが鳴った。 朝倉は右手を上げ、斎藤は両手を上げてリングを回った。 2人は握手し、言葉を交わした。 朝倉が、「斎藤選手!強かったです」と伝え、斎藤も同じような言葉を返したという。 朝倉が取られた明確なテイクダウンと、パンチをクリーンヒットされながらも、それをダウンに見せなかった斎藤の意思の力…。そのコントラストが勝敗を分けた。 榊原信行CEOも、「判定にいろんな意見もあるだろうが、ひいきめなしに、斎藤の判定勝利が、しっかりと見てジャッジされたという感じを受けた」と、イベントの責任者として、この判定に異論がないことを明言した。 「1、2ラウンドは(自分が)押されてたみたいで。試合を見ていないのでわかんないですが、もっといけばよかった、ちょっと後悔がある」 朝倉の口からは反省の言葉が漏れ出た。 そして、こう続けた。 「(斎藤に)体のパワーがあんなにあるとは思わなかった。試合映像が少ないんでね…」 戦略家の朝倉としては戦前の情報戦で後手を踏んだ誤算がある。 「対策をしているな、と思った。左の蹴りが打ち辛かった。僕の試合は多いし、YouTubeでスパーも見せている。癖を研究された。(対して斎藤の映像は)摩嶋戦以外には昔のものしかなかった。強くなってんじゃないですか。総合的に」 朝倉は、リオン武戦、アギー・サルダリ戦など、直近の3試合ほどの映像を10回ずつチェックして斎藤の癖を見抜き、「相手が俺の癖を研究すれば面白くなる」と余裕の発言をしていた。 しかし、面白くなるどころではなかった。ステップワークで左の蹴りを封じられ、逆にテイクダウンを取られた。そこにRIZIN7連勝の強者の油断があったと指摘されても仕方がないだろう。 激しい舌戦の末の悲劇的な結末…それらの場外戦を含めての総括を願うと朝、倉は意外なコメントを口にした。 「久々に負けて勝ったときよりも嬉しい気分。格闘技はやめられないなと。早く練習したい、やり返したいなという感じ」 プロでの敗戦は2017年10月に韓国の敵地で行われたROAD FC 043で、元バンタム級王者のイ・ギルウに0-3の判定負けを喫して以来、3年ぶりとなる。