「1ラウンドから釘付けになりました」元世界王者・飯田覚士が驚いた中谷潤人の変化とは…「わずかな集中の隙にパンチを放っていく感じ」
想定の上を超えてくるのが、中谷潤人というボクサーだ。 10月13、14日の2日間にわたって東京・有明アリーナで開催されたプロボクシングの8大タイトルマッチ。2度目の世界挑戦で奪取に成功した岩田翔吉、95年組対決を制した堤聖也、2階級制覇を果たした寺地拳四朗、5戦目でアジアの地域タイトルを獲得した那須川天心……様々なドラマが同一リングで起こるなか“大トリ”を担ったのがWBC世界バンタム級王者の中谷であった。ダウン経験がなく、76勝(53KO)1敗というキャリアを誇る1位挑戦者ペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)に対し、序盤から優位に試合を進めて6回に2度のダウンを奪ってTKO勝ちした。 【衝撃写真】「つ、強すぎる…」中谷潤人のエグい左がペッチの顔面にグニャリとめり込み…ダウン経験から2度のダウンを奪った圧巻のKO劇の決定的瞬間をすべて見る! WOWOW「エキサイトマッチ」の解説を務めるなど海外のボクシングにも精通する元WBA世界スーパーフライ級王者・飯田覚士氏に中谷の圧倒的な強さについて解説してもらった。<全2回の前編/後編へ>
予想とは全然違う1ラウンド
飯田から思わずため息がこぼれた。 あっけにとられたような顔つきで彼は語り始める。 「頑丈でパンチもあるペッチ選手に対して、どういう戦いをしていくか。簡単じゃない相手に対して1ラウンドは様子見になるだろうし、まずは少し受けに回るんじゃないかと予想していたんです。でも蓋を開けてみたら全然違う(笑)。スタートから右のリードジャブをビシッと当てて、こう来るのか、と。1ラウンドから釘付けになりました」 様子見という見立ては、ペッチの特徴のみならず中谷がフライ級、スーパーフライ級時代を含めて世界戦で同じサウスポーとの対戦は一度もなく、かつ、体のサイズ感が近いというシチュエーションもこれまでの戦いになかなかない。情報収集にある程度の時間が必要だと受け止めるのが自然と言っていい。飯田はまず中谷の「姿勢」の変化に目を留めた。
わずかな集中の隙にパンチを放っていく感じ
「身長の低い相手が続いていて、長身の中谷選手はちょっとかがみがちに、後ろ重心で構えていました。これ、相当難しいんです。カウンターは取りづらいわ、ジャブは当てづらいわ、いざ攻めるってときに前重心に持っていくにもパッといけない。ステップインしてからのワンツーが打ちにくいし、よくこれで何ラウンドも戦えてチャンスとみるや倒しにいけるな、と。確立したこの形で今回もいくものだと思っていました。そうしたらかがみすぎず、待ちではなく、自分から攻め込んでいく形に切り替えてきた。ジャブを当て切って、逆にペッチ選手のジャブをもらわない。明らかにここ数戦の中谷選手とは違っていました」 腰が立っているというわけではない。言わば自然体。腰の据わりを維持させたままで、下半身のパワーを拳に伝えていく。ビシッという音を奏でるそのジャブの威力は、下半身を存分に強化していることをうかがわせた。 構えもさることながら、飯田は駆け引きの妙にも着目する。いくら下半身を鍛えようが、構えを変えようが、距離をつかんでパンチをしっかり当てなければ意味がない。 「相手を掌握しているんですよね。呼吸を読むみたいなところも凄くうまくなっているなと感じました。1ラウンドに当てたジャブがまさにそう。ペッチ選手からすると“えっ、今なの”みたいなタイミングだったんじゃないか、と。スピードがあるのはもちろんなんですが、息を吐いた瞬間とかほんのわずかな集中の間の隙にパンチを放っていく感じが目につきました」 対するペッチはこのままじゃ行き詰まると捉えたのか2ラウンドに入ると前に出ていく。しかし打開とはまったくならず、リングジェネラルシップが王者にあることは変わらない。 「ペッチ選手としてはジャブの差し合いで相手を上回れない以上、距離を詰めて乱打戦に持ち込みたいと考えたはず。中谷選手のカウンターを警戒して入るタイミングも慎重でしたが、それでもチャンピオンはカウンターを当ててくるわけです」
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