南極圏と北極圏を往復飛行するキョクアジサシ、その驚きの生態
動物界を構成する生き物たちは、繁殖やエサを確保する必要に駆られて、常に動き続ける。中には、移動する際の自分の位置の特定に、想像をはるかに超える手法を用いるものもいる。 たとえばウミガメは、孵化した場所の磁気特性を「刷り込み」によって覚えており、長い期間を海で過ごして成体となったのち、生まれた場所に正確に戻ることができる。サメやエイには微弱な電流を感知する器官があり、これで獲物を見つけるほか、磁気情報を使って自身の位置を把握し大洋を泳ぐ。 渡り鳥も、旅のルートを決めるのに地球の磁場を用いている(この機能は「磁覚」と呼ばれる)。しかし、他の動物と違って鳥類には風を利用できるというアドバンテージがあり、これが鳥を想像できないほどはるか遠くまで「運ぶ」のに一役買っている。 コアホウドリは、1.8mもある翼幅と風を活用して、羽ばたくことなく数千kmの距離を効率よく飛行する。 そして約7000万年前にも、ケツァルコアトルス属の翼竜が同様の偉業を成し遂げていた。翼幅が12mにも達するケツァルコアトルスはゾウに近い大きさで、飛行が可能な動物の中では史上最大とされている。 しかし、地球上で最も長い距離を移動するのは、体重わずか100gの鳥だ。1年のあいだに北極圏と南極圏を移動して、繁殖と越冬を行うのだ。 ■北極圏と南極圏を行き来するキョクアジサシの生態 キョクアジサシ(学名:Sterna paradisaea)は毎年、夏を2回経験する。それを可能にするのが、最長で1年間に7万2000kmもの距離を飛行する彼らの生態だ。 キョクアジサシは夏に北極圏で卵からかえる。そして、厳しい冬が迫る前に驚くべき長旅に出発し、南極圏にたどりついて、そこで夏を過ごす。 その一生の累計飛行距離は、240万kmにも達することがある。 キョクアジサシは、地球の両極を結ぶ直線ルートを選んで飛ぶわけではない。魚や海棲の無脊椎動物を主とする食性、風向き、海氷の有無など、数多くの要素が壮大な旅路に影響を与える。そのため、飛行距離は直線距離より長くなるが、全体的に見ればこちらのほうが効率は良い。 向かうべき方向を示すのは、アジサシの脳内にある「頭方位細胞」だ。これは、航行や空間認識において主要な役割を果たす神経細胞(ニューロン)で、哺乳類や鳥類を含む多くの動物の脳に存在する。