ノーベル賞「化学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想
2人はDNAを素材として見たときに、DNAの以下のような特徴に注目しました。 (1)4種類の塩基がAとT、GとCというように決まったペアを作る (2)短めなDNAは簡単に合成ができる (3)DNAは生物学の分野で昔から調べられており、研究の蓄積がある この特徴を利用してDNAからシート状の構造を作ったのがシーマン博士です。博士が図1の方法を開発したのは1982年のことでした。
さらに、2006年にはロザムンド博士が、より自由な形を作り上げる方法を開発しました。1本の長いDNAを作りたい形に置き、それを短いDNAでつなぎとめるというようなやり方です。この方法を使うことで、シート状構造などの単純な形だけでなく、ニコちゃんマークや星マークなど好きな形を作ることができるようになりました。 現在は、DNAで作ったシート状の構造を組み立てて、開け閉めができる蓋つきの小さい箱を作ることにも成功しています。この蓋は特定の場所で開くように設計できるので、箱の中に薬を入れれば、体の中の働いてほしいところで薬が放出される薬箱を作ることも可能です(まだ実用化はされていません)。DNAオリガミは、例えばこうした無限の可能性を秘めた技術だといえます。 このように、DNAを化学の素材として応用方法を研究するDNAナノテクノロジーという分野がシーマン博士とロザムンド博士により発展しています。 ノーベル賞はすでに人類に貢献している研究に対して送られることが多いのですが、DNAオリガミはそのような観点でいくと、まだまだこれからの技術です。ですが、「DNA=生命の設計図」という常識を完全に覆し、私たちの世界観を変えた点と、2016年「分子マシンの設計と合成」のように、これからの活躍に期待して送られる可能性もあります。 ◎予想=科学コミュニケーター・鈴木毅(すずき・つよし)
■DNAの塩基配列を高速に読む次世代シーケンサーの開発
「次世代シーケンサー」とは、DNAの塩基配列を、自動かつ高速で読むことができる装置です。シーケンサーというと音楽の自動演奏などのイメージがあるかもしれませんが、ここではDNAの塩基配列を読み取る方のシーケンサーです。一口に次世代シーケンサーといっても、種類はさまざま。これらの開発には多くの研究者や企業が関わってきています。ロスバーグ博士は、DNA配列を読むスピードを桁違いに上げた次世代シーケンサーの1種(機種:454)を開発した研究者のお一人です。 先ほどご紹介したDNAオリガミでは、DNAを化学の素材として捉えていましたが、次世代シーケンサーが貢献しているのは、DNA本来の役割。「生命の設計図」であるDNAの配列を読むことによって、次世代シーケンサーはさまざまな分野で活躍しています。