「プロ野球90年」映画監督の周防正行さんが語る球史の分岐点 「巨人中心主義からファンのものへ。2004年のストライキが決定的だった」
僕にとっては決定的なヒーローが2004年の古田敦也さん。あの時代に古田さんが選手会長で良かった。もちろん選手としての活躍にも心躍らせた。最初にすごいと思ったのは1991年。落合博満さんと首位打者を争って、最終戦で2打席目までにヒットを打たなければいけないところで、打ってタイトルを取った。スタンドで見ていて大興奮しました。 入団した時からのスターではなかった。そんなに期待されていなかった眼鏡の捕手が、自分がやるべきことは何か、どうすれば自分がここで活躍できるかを考え、成長していった。野村克也監督が率いた黄金時代のスワローズは、よく「野村ヤクルト」という言われ方をされましたけど、古田さんのチームでもありました。古田さんには、いずれコミッショナーになってほしいですね。 今の一押しは石川雅規です。新人時代に神宮球場の外を走っているところを見かけて、思わず声をかけたら、僕より小さいんですよ。その選手がまだ投げている。何よりもその投球術が見ていて本当に楽しいので、何とか200勝まで到達してほしい。 ▽映画にしなくても面白い
野球を題材とした映画を作ろうと積極的に思ったことはないんです。実際に野球を見ていてこれだけ楽しんでいるのに、これをあえて映画にして「野球にはこんな面白さがある」と伝えられることはあるのかなと。 例えば大谷の今季40本塁打目がサヨナラ満塁ホームランでした。あの回が始まる前に、大谷に打順が回るケースは2死満塁しかないなと思ったけど、本当に回ってきて初球でホームランを打つなんて。そんな脚本は書けないです。それを現実にやってくれるわけだから。もし撮ることがあるとすれば、それは今まで僕が気付いていなかった野球の魅力を発見したときでしょう。 今はそれぞれひいきのチームがあって、いい試合に拍手喝采できる。CS放送でヤクルト戦全試合を中継してくれることで、僕は初めて巨人よりスワローズの選手に詳しくなった。子どもの頃と比べて幸せな環境です。 村上宗隆、山田哲人らの全打席、石川雅規の全投球、そして若い選手の成長を見られる喜び。村上が三冠王って、すごく感慨深かった。まさかこんな4番が。スワローズに王貞治がいていいのかって(笑)。