「プロ野球90年」映画監督の周防正行さんが語る球史の分岐点 「巨人中心主義からファンのものへ。2004年のストライキが決定的だった」
選手会の労働組合としての団体交渉権は、一審の東京地裁で否定されたけど、東京高裁で認められた。日本中の人がストライキを応援したなんて、労働運動の歴史の中で初めてだと思うんです。社会科の教科書に載ってもおかしくない。それまでのプロ野球は巨人やオーナーたちのためにあったけれど、まさに一生懸命野球をしている選手たちが声を上げた。プロ野球がはっきりとファンのもの、選手たちのものだということを決定づけたのが、ストライキとその後の楽天の誕生。楽天というチームが生まれることで、田中将大というスターも生まれた。 プロ野球の歴史の大きな分岐点。本当に1リーグ制になっていたらと考えると恐ろしいです。あのときにストライキが社会的な批判を浴びて、1リーグ制が実現していたら。それを「イフ」(もしも)として考えることができるのは幸せ。渡辺オーナーはそれまでのプロ野球をジャイアンツが引っ張ってきたように、これからもジャイアンツでまとめきれる自信があったと思うんですけど、それが裏切られましたよね。あれで初めて、プロ野球がファンのものになった。 ▽目指すところは大リーグに
「ON」で「V9」というジャイアンツの歴史の頂点から、少しずつ陰りが見えてきたというのは、実は日本のプロ野球の発展にとっては大事なステップだった。あとは野茂英雄さんが大リーグに行ったこと。成功したからみんな褒めていますけど、移籍する時のプロ野球関係者からの裏切り者扱いはひどかった。それでも彼が勇気を持って行ってくれたことが、大谷翔平というスターにつながるんです。 江川さんも時代がもう少し後だったら、大リーグに行っていたんじゃないかな。だって、巨人のドラフト指名を待つ間、米国に野球留学していたんですよ。野茂さんより先に足跡を残して、みんなが大リーグを目指すのが早くなったかもしれない。でも、まだ時代がジャイアンツだったんですよ。巨人中心主義が野球人生を左右したという人は、いっぱいいたんだろうなと思います。 60年野球を見てきて、本当に変わったなと思うんですよ。今の子どもたちは大谷というスターを見ている。目指すところはかつてのように巨人のエースや4番ではなく、大リーグになった。メジャーで活躍することが野球少年たちの夢になることで、プロ野球ももっともっと力を付けて、面白いものになっていくと思うんですよね。 ▽ヒーローは古田敦也