創業127年目の組織風土改革 明電舎に学ぶイノベーション人財の育て方
専門家だけではない、多様な人財を経営に
――貴社では、早期からの経営人財育成に取り組まれているそうですね。その目的についてお聞かせいただけますか。 野口:歴代の当社の経営陣は、専門性の高い人が多かったのです。専門性と言えば聞こえはいいのですが、悪く言えば、自分の守備範囲のことしか知らないとも言えます。経営には多角的な視点が必要であり、自分の職掌に加え、幅広い知見を持っているほうが優れた経営判断ができます。それならば、経営スキルを意識したキャリアプランにしたほうがいい。専門性は深めつつ、知の探索にも時間をかけてほしい。そのような思いから、20年ほど前から経営人財育成が始まりました。 人事の観点から見ても、2021年にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、経営陣の知識・能力・経験などを一覧化した「スキル・マトリックス」の開示が求められるようになりました。これは社外への発信を主目的としつつも、自社の経営組織のスキルを棚卸しするものです。未来の経営体制を考え、それに見合った経験・スキルを持った人財が中長期的に育つための機会を提供していく必要があると考えています。 経営人財育成のために行っているのが、階層別の選抜者向け社内研修です。主任層は企画構想スキル、課長層は事業戦略、部長層は経営戦略を学びます。さらに、社外研修も活用し、選抜者に経営に必要なスキルの習得と社外交流の経験をさせています。また、入社4~6年目で経験するジョブローテーション制度も経験の幅を広げるための取り組みとして実施しています。 一方で、人財育成全般において「自律性」も大切にしたいと考えています。これまでは、ジョブローテーションはある一定の年次に到達すると実施していたのですが、本人のキャリアビジョンを尊重し、スペシャリスト志向の人には専門性を追求できる道を用意できるよう検討を進めているところです。また、やる気のある人に機会を提供できるよう、従来は完全に選抜式だった社外研修への派遣を一部、手挙げ制に変更する予定です。 ――多様性を確保するために、キャリア採用も活発になっているのですか。 野口:従来、新卒採用とキャリア採用は2:1くらいの比率だったのですが、現在は1:1くらいの比率になってきています。現在、新卒採用で技術者を採用することの難易度がだんだんと上がっています。電気や機械を志す学生自体が少なくなってきているのです。そのため、明電舎を支えてきた専門性を突き詰める人財は、教育機関だけに任せていては育たない環境になりつつあります。 だからこそ「入社してから育てる」という取り組みを強化しています。2020年には、若手社員やキャリア入社者の早期戦力化を目的に、沼津に技術研修センター「Manabi-ya(学び舎)」を設立しました。入社後に電気の基礎教育等をすることで採用難に挑んでいます。