創業127年目の組織風土改革 明電舎に学ぶイノベーション人財の育て方
挑戦を後押しする「10%カルチャー」と「MEIANチャレンジ」
――イノベーション人財を増やすための取り組みについて教えてください。 坂野:「MASTプロジェクト」という取り組みを進めています。自前主義から脱却し、将来的に他社との協業も視野に新規事業創出を目指す、そういった文化を根付かせることをミッションとする全社横断プロジェクトです。イノベーション人財の育成や風土醸成などの土台作りに取り組みつつ、新たな事業アイデアの社内公募や他社との共創活動を推進しています。 MAST(マスト)は、「(M)明電舎の(A)明日を(S)創造する(T)考える」の略であり、船の帆柱の意味も持ちます。イノベーションには逆境がつきものですが、荒波を乗り越えるためにしっかりと帆柱を立てて進んでいこうという思いが込められています。 2021年から本業以外の取り組みに時間を割く「10%カルチャー」という制度を導入しました。MASTプロジェクトの中で、なぜ明電舎はイノベーションが生まれづらいのかを分析したところ、多くの人が「時間の確保が難しい」と感じていました。そこで業務時間の10%、つまり一週間の仕事のうちの半日を、本業以外の活動に時間を割くことを推奨しています。 新規事業に関心を持つ人財を増やし、イノベーター輩出につなげることが目的です。ただ、全社員が同じように時間を確保できるかというと、そう簡単ではありません。工場部門の人件費の考え方とコーポレート部門の人件費の考え方は違います。あくまで「10%カルチャー」であって「10%ルール」ではないところがポイントです。強い言葉で強制力を持たせるのではなく、意欲がある人がやるという自律性を尊重した形にしました。 ――10%カルチャーでの取り組みは評価にも影響するのですか。 坂野:はい。当社は個人の評価に目標管理制度を用いており、その中に「未来志向」という項目があります。今までの業務の延長線でもいいし、新しいことにチャレンジしてもいい。管理職には10%カルチャーの意義を理解し、部下のチャレンジを支援するように伝えており、業務外での活動は目標管理の未来志向の中で評価するスキームになっています。 野口:それでも、10%の時間が確保しづらいという声はあります。そこには「業務が忙しい」というのと「上司の理解を得づらい」という大きく二つの要因があります。年齢が上の世代の社員は、自分で新しい世界を切り開いた経験が少ない。個人のキャリア自律よりも、目の前の仕事に取り組むことが、会社や組織の目標を達成するために重要とされる社会構造だったからです。だからこそ、今はマネジメント教育が重要。これまでの価値観にとらわれず、業務以外の活動を推奨することが、回り回って自社のためになることを伝えています。時にはイノベーション推進事務局が、手を挙げた人の上司に出向いて交渉することもあります。 ――アイデアコンテスト「MEIANチャレンジ」についてもお聞かせください。 坂野:2022年から、新規事業創出の気運をさらに高めるため、アイデアコンテスト「MEIANチャレンジ」を開催しています。名称は「名案、明案、迷案」の三つの意味を包含しており、「MEIAN」で未来を変えるきっかけにしてほしいという願いが込められています。当社はサステナビリティ経営における提供価値として、カーボンニュートラルとウェルビーイングを掲げています。この二つをテーマに、新規事業アイデアを募集し、最終選考に残ったチームは最終発表会でプレゼンテーションをします。 例えば昨年は、複数の部門からゲーム好きが集まりました。「下水道事業のイメージを、ゲームを通じて変えよう」というアイデアです。当社には下水処理施設の維持管理事業があるのですが、どうしてもネガティブなイメージがあり、積極的にその仕事に関わりたいという人はなかなかいません。そこで集結したメンバーは、自分たちで下水道を題材としたゲームを制作して同事業への関心と理解を深めると共に、下水道に対する先入観を払拭するというアイデアを提案してきました。 明電舎にはグループ会社を含めて約1万人の従業員がいますが、多様性があり、いろいろなアイデアの種を持っています。その発掘をできるのが、このMEIANチャレンジなのです。 ――アイデアから事業化した例はあるのですか。 事業として実用化されるのはもう少し先の予定です。今はMEIANチャレンジを通して、手を挙げる文化やイノベーションマインドを醸成することが重要だと考えています。また、MEIANチャレンジは挑戦した人が社内の人脈をつくれる場所としても機能しています。先ほどのゲームの例も、本社と、名古屋・沼津・太田の3工場に勤務しているメンバーがオンラインで集まってできました。こうして社内のネットワークが活用されることが、イノベーションにつながると考えています。