創業127年目の組織風土改革 明電舎に学ぶイノベーション人財の育て方
イノベーションは、ある日突然やってくるわけではありません。挑戦を歓迎する土壌があって初めてアイデアが飛び交うようになり、無数のアイデアのうちの一つが花開くのです。株式会社明電舎は、創業120年以上の歴史を持つ、国内外のインフラを電気技術で支える電機メーカー。同社は、歴史があるがゆえに「新規事業が生まれづらい」という課題を抱えていました。未来の見通せない今、生き残れるのは変化する企業。同社はどのようにして組織風土改革に取り組み、イノベーション創出を目指してきたのでしょうか。株式会社明電舎 人事統括本部 人事企画部長の野口英明さんと、経営企画本部 事業開発部長の坂野仁美さんにお話を伺いました。
コロナ禍を機に、変革への危機感が増した
――貴社は「多様な人財がイキイキと成長・活躍できる風土醸成」を事業基盤にかかわるマテリアリティの一つとして掲げています。その理由や目的をお聞かせください。 野口:今、働くことへの価値観が大きく変わりつつあります。転職する人が増え、人財の流動性が上がりました。少子高齢化が進み、働き手がどんどん減少する中で、企業は優秀な人財に来てもらわなければなりません。技術の高い人財はなおさら採用が難しい。そこで私たちが注力しているのが、組織風土の改革です。 当社の若手を見ていても、自己成長やキャリアに対する意識が非常に高いことを感じます。人財を育成する上では、社員が働きがいを持てることが重要です。イキイキと働き、成長に喜びを感じられる。その結果として、活躍があると思うのです。だからこそ「多様な人財がイキイキと成長・活躍できる風土醸成」を重要課題として取り組んでいます。 ――イノベーション推進にも取り組まれていますが、その背景にはどのような課題があったのでしょうか。 坂野:明電舎は120年以上の歴史がある会社ですが、既存の事業を守り抜いてきたからこそ、新規事業が生まれづらい体質になっていることが課題でした。自前主義なところもあり、良くも悪くも「自分たちでやらなければ」という意識が強いのです。 しかし未来がどうなっていくか不透明な時代に、自分たちだけでロードマップを引いてやっていくのは無理がある。スピード感も遅く、視野も狭くなりがちです。挑戦がすべて成功するわけではないことを考えると、失敗を前提に、一つでも多くのチャレンジをしたほうがいい。 10年後、20年後に明電舎が変わらず価値を生み続けるには、現状維持ではなく、イノベーションが生まれやすい組織風土へと変革していかなければなりません。このような課題意識から、さまざまなプロジェクトが始動しています。 ――イノベーション推進にあたり、どのような戦略を立てられましたか。 野口:明電舎では「AMOフレームワーク」をベースに人事戦略を立てています。人財を人的資本と捉え、「能力(Ability)」と「モチベーション(Motivation)」を高め、全ての従業員が活躍できる「機会(Opportunity)」を整備・提供することで、企業のパフォーマンスを最大化するという考え方です。 これまで明電舎は、メーカーとしての技術力を重視した人財育成に励んできました。しかし、専門性を追求するだけでは、硬直的なキャリアになってしまいます。多様な経験を積むことで個人の中に多様性が生まれれば、イノベーションが生まれやすくなる。そのために、入社4年目~6年目にジョブローテーションを組み込み、経験の幅を広げられるようにしています。 坂野:既存事業を成長させつつ、新規事業を創出する意識を高めていく。これまで培ってきた明電舎らしさを大切にしながら、新規事業を創り出せる人財を輩出する。そういう人財育成を目指しています。 ――イノベーション推進と人財育成は、どのように連携されているのですか。 坂野:当社はイノベーション人財をピラミッド構造で四つに分類しています。上から順に、自ら事業を起こす「イノベーター」、実際にテーマに取り組む「コア人財」、具体的にテーマを考案する人や協力者が「テーマ提案者」、イノベーションに興味がある「関心者」という構成です。イノベーターは社内で10人、コア人財は30人、テーマ提案者は100人、関心者は400人程度という体系で、まずは現中計期間のうちに全社員の約1割となるようイメージしています。これらの人財が育つよう、各部署が連携して施策を企画しています。 イノベーターと聞くと、「特別な才能のある人」というイメージがありますが、社員にはそう思ってほしくありません。私は最近、明電舎にとってのイノベーターとは、人の行動を変える人ではないかと感じています。確かに特別な才能を持つ人は、0から1を発明できるのかもしれません。しかし、明電舎にとって本当に大切なイノベーターとは、今ある技術や人を組み合わせたり、周囲に影響を与えたりしながら、新たな価値を創り出せる人。そういった人財が明電舎の未来をつくるのだと考えています。