老いることで娘を引き寄せる母にどう対処すべき? 母娘問題の力作が新章を加えて文庫化
公認心理師・臨床心理士の信田さよ子さんにより、2017年に出版された『母・娘・祖母が共存するために』。約7年を経ての文庫化に伴い、新章「高齢化する母と娘たち」を加筆し発売されたのが、今回紹介する書籍『母は不幸しか語らない 母・娘・祖母の共存』です。 信田さんは同書において、母と娘を主題とする日本の言説の流れを以下の4期に分けています。 第一期 ウーマンリブ・フェミニスト主導、1972~ 第二期 アダルト・チルドレン(AC)ブーム、1996~ 第三期 「墓守娘」「母娘本」ブーム、2008~ 第四期 当事者本(体験記)の大量刊行と毒母・毒親ブーム、2012~ こうした流れを経て、「毒親」「毒母」といった言葉は今では世間に浸透し、ある意味カジュアルに定着することとなりました。その中で同書は、「娘の被害・母親の病理といった心理的問題に帰結させることを避けて、家族・世代という視点を投入し、さらに団塊女性に象徴される母親たちの抱える困難さにも言及する。どうせ女性だけの問題でしょ、といった反応を避けるために、父親(夫)である男性や、息子と母の関係にも触れている」(同書より)というところが注目すべき点だと言えます。 団塊世代の女性たちは、それ以前の世代と比べて男女平等の理念を掲げた教育を受けたているにもかかわらず、実際の夫婦関係においては仕事中心で家事・育児に無関心な夫の姿を目の当たりにし、裏切られたと感じている人が多いそうです。それが母としてのエネルギーの源泉につながり、「成長した娘との関係に大きな影を落とすことになる」(同書より)という一方で、「母と娘の問題がクローズアップされることで、父が免罪されると思ったら大間違いである。(略)母娘問題の背後にあって、決して当事者とならず、傍観者的位置取りを試みる父親たちの存在こそ、問われなければならない」(同書より)と父親の不在についても信田さんは厳しく指摘します。 そして、加筆された新章で主に掲げられているのが「AC(アダルト・チルドレン)の男性たち」「高齢化する母」の二点のテーマです。恐ろしいのは、娘にとって高齢化する母親は減衰する体力と反比例して権力化するという点。「歳を取ることで体力の弱体化が起き、そのぶんだけ娘のケアを引き出すことができ、歳を取り老い先短いという『不幸』によって娘に罪悪感を抱かせることもできる」(同書より)というのは、超高齢化社会をむかえたこの先、さらに増えていく問題だと言えるかもしれません。こうした高齢の母に対し、娘たちはどのように備えればよいのでしょうか。同書ではその対処法についても詳しく説明されていますので、同様の葛藤を抱えている方にはぜひ参考にしていただきたいところです。 「母という存在を、病理や愛着といった言葉ではなく、核家族・団塊世代・近代家族といった視点からとらえること。何よりひとりの女性が結婚・出産を経て何を失い、何を獲得するのかというまなざしであの母たちをとらえたいと思っている」(同書より)という信田さんの思いが込められた同書。母娘問題に悩む人には、多くの気づきが得られる一冊になるはずです。 [文・鷺ノ宮やよい]