“豊作の年” 注目の3台の新型がデビュー 2015年クルマ業界展望
さらにこれに後輪操舵システムが加わる。ホンダがプレシジョン・オール・ホイール・ステア(Precision All-Wheel Steer)と呼ぶトーコントロールシステムをNSX用にチューニングしての搭載だと思われる。これによってリアのトーインを減らしてヨーモーメントを起こしやすくしたり、ターンインの終了に合わせてトーインを増やし、求心力を高めたりということがアクティブにできるようになる。基本的な狙いはリアタイヤのグリップ力の増減制御だが、二次的にはその発生タイミングをコントロールすることでヨーモーメントの増減にも関与できるシステムだ。 特にミドシップの場合、重量物がリア寄りに搭載されることになるので、リアタイヤが一度遠心力に負けるとリカバーが難しい。だからリアのグリップを破綻させないことがハンドリングの保険になる。スーパーカーの多くがリアに巨大なタイヤを履かせているのはそのためだ。ただし、こういうタイヤサイズの選択をすると直進安定性が高まり、アンダーステアが強くなってしまう。 折角のミドシップが鈍重な挙動では困る。アクティブトーコントロールは、トーインを可変にすることでリアタイヤの横方向グリップ力を可変にし、ハンドリングの機敏さ(初期回頭性)と限界での安全性を両立することが目標だ。日本人が好むゼロ戦的ヒラリ起動と、限界時の安定性が両立できるという点において、量販前提のミドシップには大きな意味があるデバイスだ。 こうした様々なシステムの採用により、絶対的な旋回能力は凄まじいものになることが予想されるが、一方で旋回能力とそこへ至るプロセスを決めるファクターが、従来の数倍に増えるわけで、果たしてそれがドライバーの気持ちに馴染むものに仕上がるかどうかは全く未知数である。また余りにも革命的なので、従来の運転メソッドとの親和性も心配される。NSXはわれわれの知っているクルマと違う新しい運動体になっているかもしれない。それを技術的進歩として常に前向きに受け入れられるかは個人の価値観に依存せざるを得ない。 とにかく要素を見る限り、これまでのスポーツカーの運動性能と隔絶したものになるのは間違いない。見たことも触ったこともない新しいものが成功するのか失敗するのかは全く解らないが、いずれにしても自動車130年の歴史に名を刻む新たな挑戦をするクルマのデビューに注目しないわけにはいかない。