コロナ分類見直しで金融緩和が修正される? 日銀の政策指針に注目
政府は新型コロナウイルスの感染症法上の分類を見直す方針を示していますが、この動きが日銀の金融政策の修正につながる可能性があると、第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストは指摘します。藤代氏による寄稿です。 【写真】“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 政策修正めぐる5つの「Q」
賃金は徐々に上昇、金融緩和修正の論拠整う
日銀は1月18日の金融政策決定会合で短期金利を▲0.1%、長期金利を0%程度に据え置くイールドカーブ・コントロールを維持しました。同時に長期金利の上昇を押さえ込むための措置として共通担保オペ(以下、共担オペ)の拡充を決めました。 共担オペとは日銀が適格と認めた国債などの担保を(民間金融機関が)日銀に差し出すことで、日銀が金融機関(≒銀行)に対して低利で資金供給を実施するというものです。民間金融機関は(取引コストなど考慮後の国債利回りよりも)低利で調達した資金を国債購入に振り分けることが可能になるので、金融機関に国債購入を促す効果があります。 この措置によって長期金利は急低下しました。日銀が長期金利の引き上げに動くと予想し、日本国債の下落(長期金利上昇)を狙っていた投資家は損失を被ったとみられます。 これによって、ひとまず長期金利の上昇は止まりましたが、やや長い目でみれば日銀が緩和修正に向けて動く可能性は高いと判断されます。黒田総裁は緩和修正の条件として「賃金上昇を伴った物価上昇」が必要であると繰り返していますが、日本の一人当たり賃金を示す指標である毎月勤労統計によれば、基本給に相当する概念である所定内給与は前年比+1%台前半まで高まっており、徐々にではありますが賃金と物価の相互刺激的上昇が観察されるようになっています。超緩和的な金融緩和の修正を正当化する論拠は既に整っていると言っても過言ではないでしょう。
コロナ初期に導入された現在の日銀の政策指針
では日銀はいつ、何をきっかけに動くのでしょうか。筆者は意外な点に注目しています。それは新型コロナの感染症法上の分類の変更です。政府は「2類相当」から「5類」に引き下げる方針を示しています。一見すると政府の動きと金融政策には関係なさそうですが、なぜそれが重要かと言えば、フォワードガイダンス(日銀の声明文に記載されている政策指針)の修正を通じて金融政策の変更につながる可能性があるからです。 現在のフォワードガイダンスはコロナまん延の初期段階にあたる2020年4月のパニック時に緊急対応的に導入されたもので、それは「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」というものです。 金融政策(政策金利)の基本的方針がコロナ感染状況に紐づいていますので、感染症法上の分類が見直された後は、コロナを理由に緩和継続方針を掲げておくことは正当化されなくなると考えるのが自然でしょう。だとすれば、このフォワードガイダンス見直しに合わせて金融政策が修正される可能性はあります。